El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

ブックガイド(52)筒井先生、こんどは女医問題ですか!

――筒井先生、こんどは女医問題ですか!――

 気楽に読める一般向けの本で、アンダーライティングに役立つ最新知識をゲットしよう。そんなコンセプトでブックガイドしています。査定歴21年の自称査定職人ドクター・ホンタナ(ペンネーム)です。今回のテーマは「女医」・・うーん、読んでみるとさまざまな要素がからみあった複雑な話でした。

 複雑なテーマを圧倒的な筆力で解き明かしてくれたのは筒井富美先生、最近はテレビでもよくお見かけするようになりました。昨年9月にここで紹介した「フリーランス女医は見た 医者の稼ぎ方」もためになりましたが、本書もそれに劣らぬ面白さで一気読みしました。

 医大・医学部の入試で女性に不利な採点が行われていたということで騒ぎになったのはつい最近のことです。そもそもは〇〇医大の入試で文科省の局長の息子の点数にゲタをはかせたという事件が発端でしたが、その調査途中で噴き出した女性不利入試問題のほうがすっかりクローズアップされてしまいました。

 私が医学部に入学したころ女子医学生は1割くらいだったのですが、医学部人気もあっていまでは4割近くが女性というのですから驚きです。ちなみに首都圏の医学部合格者の高校別ランキング1位は桜蔭、2位は白百合と共に女子高です。

 医療というのは手術や当直・急患とどうしても肉体労働に近い部分が相当ありますから、出産・育児による離脱も加味すると女医は男医の7-8割の戦力にしかならないわけです(と、本書にあり)。女医の数が1割のころには残り9割の男性医師でカバーできていても4割が女医となるとカバーしきれないという事態になります。医大・医学部への入学はそれに付随する附属病院の就職とほぼ同じことなので、入試で男女平等にして女医の比率が増えると病院運営が立ちいかなくなるというわけです。

 さらに、筒井先生が前著でもこきおろしていた「新臨床研修制度(2004)」だけでなく2018年からは「新専門医制度」が発足。これがまた男目線の制度で、たとえば内科専門医になろうとすれば臨床研修が終わってもさまざまな経歴が必要で専門医の研修は最短で29歳からのスタートになります。これでは内科専門医を目指すことと結婚・出産・育児とは両立できません。女医の生涯未婚率35.9%(男性医師は2.8%)にものぼります。結局、女医の多くは短期間で専門医になれる眼科医や皮膚科医を目指します。 アメリカでも事情は同じで女医比率の高まりのため外科を中心に医師不足となり、そこをインド人や日本人の男性医師が埋めています。日本で最近アメリカ帰りのスーパードクターが増えているのにはそういう事情もあるんです。

 本書はさらにさらに、「女医の女子力の年代別変遷」や「三十路独身女医の三重苦」など興味深い話ばかりですが、ちょっとここで紹介するのははばかられます。ぜひ手に取って読んでみてください。

 結局は、男女平等という理念は正しくても、妊娠・出産は女性にしかできないことですし、育児分担も完璧に男女平等にとはいかない、という生物学的現実とどう折合いをつけるのかということでしょうか。そう考えると、結局は「女性と仕事」という普遍的な問題に帰着するわけで、われわれの業界も無縁ではないということになります。本書の著者も「働き方改革は、報酬改革とセットで」や「メンバーシップ型からジョブ型への移行」など提言しており、われわれ会社人の参考になるヒントも満載です。 
(査定職人 ホンタナ Dr. Fontana 2019年8月)