El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

アラブ革命はなぜ起きたか

モグラフィーにおける交絡因子を考えたい

日本語で出版されている本では比較的新しい(2011年9月刊行)ので、それまでのToddの出してきた本の概要がつかめる。そうすると、いくつかのTodd的な思考回路がなんとなくわかってきて、そういう思考方法を最近の国際政治・経済に適応すると・・・・アラブ革命の本質や昔のイラン革命の本質、少子高齢化が進む先進国の危機、中国とロシア・・・・という問いに対するTodd的理解が得られる、それを非常にさらーっと書いているので、「Toddってわかりやすい!、すごく腑に落ちる!」となってしまう。だがだが、たぶん本当のTodd理論というのはもっと緻密(なはず?)なのではないか。試みに「デモクラシー以後」(2009年刊)を読んでみると、かなりねちっこいです。

だから、本書だけを読んで、「デモグラフィー(人口学・人口動態学)ってすごい」「なんでもデモグラフィーで理解できるかも」と思うのは早計だろう。ある世界史的出来事にはさまざまな輻輳的な因果論があり、デモグラフィーは因果関係の一部を説明できるかもしれないが、それだけで説明できるわけではない。デモグラフィーを一回りリアルにした考え方として疫学(Epidemiology)があり、主として医学的な因果関係を証明するために使われることが多いのだが、この疫学の因果関係論でも問題になるのが交絡因子(confounding factor)である。

たとえば、「喫煙者は肝機能が悪い」というデータがあるとしても、これは喫煙が肝機能を悪くする直接的な原因というわけではなく、喫煙者は飲酒量も多い、飲酒量が多いものは肝機能が悪い、というわけで、「飲酒」という交絡因子がからんでいる。

Toddは当然、考慮に入れていることだとは思うが、「識字率の向上と民主革命の発生は時期を同じくしている」というデータ的事実から、「識字率の向上が民主革命の原因」という因果関係のを示していると考えるのはやや早計である。そこには今は気付かれていない「交絡因子」があって、それが「識字率を上げる効果もあるし」「民主革命を起こす効果もある」のかもしれないのだから。デモグラフィーでは交絡因子という考え方があんまりないのかもしれないが・・・もう少し他の著書も読んでみたい。