El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

たった一人の反乱

創作の秘密はついにわからないまま

丸谷氏の小説、特に長編はある特定の職業集団や職場をきわめて細かく描くことで、読者に知識を与えてくれる。一方で、主要な登場人物はそういった社会的バックグラウンドの中で、それぞれの人生観・社会観を披歴しながら(まあ、多くの意見は丸谷氏自身の人生観・社会観であるわけですが)、自己の所属する集団・社会におもねったり反発したり批判したり。読者は、まるで、主要な登場人物の日記を読むかのような気になっていく。

そういう全体構造のなかで、いくつかのプロットが展開していき小説としての筋書きになっていく。筋書きそのものは、登場人物が恣意的に引き起こすというよりは、社会の動きとしてあたかも自然発生的に流れていく。

「たった一人の反乱」では「官僚機構」「大学」「学生運動」「刑務所」「企業」「写真」「モデル」「女中」といった集団。それら集団の特性、構成者の意見、それがおり重ねられながら、全体を通じては市民社会の裏表が描かれ、ストーリーは市民社会からのアウトロー的な人々が回していく。

実に、うまく作らていて、どうしたらこんなふうに創作できるのか。丸谷氏の小説を読み続け、評論やエッセーも読み続けたらその創作の秘密を知ることができるのかもと思っていました。

残念ながら丸谷氏は昨年亡くなって、いまだ創作の秘密はわからないままですが、秋には全集のうわさもあるので、そこからまたトライしていこうかと思います。