El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

夜明け前 全4巻

別格の歴史小説

夜明け前 全4冊 (岩波文庫)

夜明け前 全4冊 (岩波文庫)

  • 作者:島崎 藤村
  • 発売日: 2003/09/11
  • メディア: 文庫
 

 20050929 島崎藤村「夜明け前」を読み続ける。幕末・維新期のクロニクルだが文章の味わい深さや、歴史の主人公と物語の主人公の間のバランスが非常に良く、その後のいわゆる歴史小説に比べれば別格。

20051005 「夜明け前」の第一部(二巻)を読んだ。これは意外にすらすらよめる幕末の歴史小説司馬遼太郎などよりもよほどよい。というか、これを読むとその後の幕末維新ものの歴史小説というのはみなこれの亜流なのではと思わずにはいられない。江戸と京都とをつなぐ木曽の街道(東仙道)に視点をおくという着眼点もみごとで、江戸にも京都にも偏らず、やじろべえの中心で揺れ動き右往左往する右左のおもりを見ているようなそんな見方ができる。

20051007 「夜明け前」、明治維新が成りいよいよ佳境。ここから次第に現実に失望していく主人公(藤村の父がモデル)、平田国学と本居国学の違いなどテーマは深まっていくようだ。

20051016 「夜明け前」(岩波文庫全4冊)読了。これはうまい小説だ。歴史小説私小説の絶妙な融合。ちょうど茂木健一郎の本を読んでいるのだが「世界知」と「生活知」の相互関係をこれほど見事に描いたものは日本文学では他に知らない。その上に、主人公が藤村の父であるということでさらにもう一回り「世界知」と「生活知」の間にある「世代知」みたなものを表現することにもなっている。