El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

ヘンリー・ライクロフトの私記

読書人の隠遁生活三連発

ヘンリ・ライクロフトの私記 (岩波文庫)

ヘンリ・ライクロフトの私記 (岩波文庫)

 

読書人の隠遁生活を淡々とつづるという分野のものなので、「森の生活」同様の途中の退屈さは否めない。ソローとちがってこれはフィクションであり、ギッシングが将来こうあれかしという生活だったのだろう。解説を先に読んだがギッシング自身はライクロフトとは違いちょっとさびしい死に方をしたようだ。

P102「えてして大人の癖として、読んだことにしている本、すなわちそれについて話ができるほど十分知っているつもりでいて、しかも開けたこともない本」

P251「ただ私が今までの生涯で得た体験を身につけて、もう一度人生を繰り返すことができたらどんなに良かろうと思う!」

などの表現は読書人の普遍的な考え方として再確認。訳者の平井正穂の解説がなかなかおもしろい。ウェルズがギッシングの人生をまとめた言葉「彼は人生をまともに見ようとはしなかった。いや、おそらくは見ようとしても見られなかったのだ。・・・この悲劇がはたして性質によるものか教育によるのか、私にはなんともいえない」というのは、意味深げだ(前後が不明のため真意がいまひとつわからないが)。

シルヴェストル・ボナールの罪」「森の生活」そして本書と読書人の隠遁生活を描く3編を読んだが技巧のうまさではアナトール・フランスがやはりうまい。隠遁生活をバックグラウンドにし、かつストーリー性を忘れずということ。