El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

人生、しょせん運不運

 古山高麗雄氏の絶筆

人生、しょせん運不運

人生、しょせん運不運

 

「断作戦」「龍陵会戦」「フーコン戦記」、古山高麗雄の戦記三部作に共通するのは、それを書いている「現在」と戦われている「過去」の戦争が交錯して描かれること。生きた者、死んだ者がいて、過去を振り返るものがいる。そうしたすべてが「しょせん運・不運」であるといいながら、運・不運をわけた分岐点のことをくどくどと思い出してみたりする。

思い出す当人にとってみれば、いくつもの分岐点で今に続く道を選んだ、選ばざるをえなかった結果として今の自分があるので、結局選んだことを否定するのは難しい。あのとき違う方を選んでいたら、と言ってみたってしかたない。しかし、そんな想像をしてみたりする。

そんな具合に自分の来歴を振り返る文章が、平成14年(2002年)に81歳でなくなった古山高麗雄氏の絶筆となった本書。最後の章で「玉の井の勝子」の思い出を語りつつ筆を絶った・・その瞬間のリアルさ。

「悪い仲間」で微妙な関係になった安岡章太郎は古山よりさらに10年長命だった・・まさに、しょせん運不運。

文庫 人生しょせん、運不運 (草思社文庫 ふ 4-1)

文庫 人生しょせん、運不運 (草思社文庫 ふ 4-1)

 

 文庫本になったのをきっかけに、図書館で元本を借りて読んでみた。

精神科医がみた 老いの不安・抑うつと成熟

 上手いのは引用だけか・・・

 「歳をとると1日は長く、1年は短い」(ベーコン・・R?W?)

「自分の過去を知っている者が周りからいなくなる老いとは真の孤独だ」(ラッセル)

あと、物集高量(もずめたかかず 1879-1985)の略伝。それ以外は、教科書の下書きのような硬い文章。誰が対象なのかよくつかめない。

「その日暮らし」の人類学 もう一つの資本主義経済

 「タンザニアのおけるインフォーマル経済」がメイン

「はじめに」「プロローグ」で思い切りLiving for Today・・・今を生きるというやや哲学的な切り口の話になり、それに魅かれて読み始めると、メインは「タンザニアを舞台としたタンザニア人と中国人のインフォーマル経済」の話がレポート調で続くことになる。今を生きることから遠く離れてしまった日本人や欧米人のライフスタイルから「今この瞬間を生きる」みたいな禅的なライフスタイルへの転換・・・とかそういう話ではない。

この本は「その日暮らし」しかできない社会の社会構造を分析しているので、われわれがLiving for Todayをどうやったら取り戻せるのかと思って読んでもそれは解決しない。

日本の読者は文明化した我々にとってのミニマリストブーム的な「その日暮らし」を求めて読み始めるのではないだろうか。そういう意味では肩透かし。

「その日暮らし」しかできない社会もやがて安定した将来不安の少ない社会になるのだろうが、そうなると今後は目の前の生活の意義が不明瞭になって「今を生きる」に憧れる。しょせんは無いものねだりなのかも。

アスベスト 広がる被害

 2020年代アスベスト建造物の解体ピーク

アスベスト――広がる被害 (岩波新書)

アスベスト――広がる被害 (岩波新書)

  • 作者:大島 秀利
  • 発売日: 2011/07/21
  • メディア: 新書
 

病理学会でアスベストがテーマになることが増えている。これは、アスベストの被害者救済事業での被害者認定に病理医による病理学的なアスベスト疾患であることの証明が重要な要素となっているから。

いっけん被害者のためにやっているような救済事業だが、なんとなく疑っている。認定のためのハードルの役割を病理医に押し付けようとしているのではないか。しかし、それはわからない。

日本病理学会 新着情報 (pathology.or.jp)

この文章でも、病理医に「安易な中皮腫診断をしないように」という内容なのか「疑わしきは中皮腫とする」という内容なのか・・・例に寄ってのお役所文書でわからないのだ。(多分、真の病理医にはわかる?)

それにしても救済機構が弁当代までだして病理学会でセミナーをやっていることの違和感は消えない。

そこで、毎日新聞の記者が書いた「どちらかというと被害者目線の」本書を読んでみた。曝露と発症の時間差(40年)

①戦争期から戦後直後にかけて軍需を中心とした曝露→2000年前後

②高度成長期のアスベスト産業およびその周辺の曝露→2010年頃

アスベスト吹付建造物の使用者の曝露→2010年頃から現在

アスベスト建造物の破壊に伴う曝露(震災+建て替え)→現在から20-40年後

2020年代アスベスト吹付建造物の解体ピークらしく、そこでの曝露はまだまだ未来の出来事なのだ。解体もきちんとやられているわけではなく手抜きも多そうだ。古いビル(といっても築30-40年)と関りがある人は無関係ではない。

クボタ・ショックの時のクボタの神対応は企業のありかたとして参考になる。

ブックガイド(88)――コロナ・ワクチン始まる!――

――コロナ・ワクチン始まる!――

 気楽に読める一般向けの本で、アンダーライティングに役立つ最新知識をゲットしよう。そんなコンセプトでブックガイドしています、査定歴23年の自称査定職人ドクター・ホンタナ(ペンネーム)です。今回は久しぶりに「新型コロナ」本・・・うんざりですか?たしかに書店をのぞくとコロナ本があふれていますが、逆に増えすぎて何が何やら、みんな好き勝手なこと言ってるんじゃないの・・・という状態になってますね。それはテレビやネットも同じで、何を信じていいのかわからないという人も多いのでは。

 そんな中、科学的で冷静な分析力が感じられ、ワクチンについても信頼に足ると思えたのがこの「新型コロナとワクチン 知らないと不都合な真実」です。ちょっと怪しげなタイトルですがそれからは想像もつかないほどの良書でした。ワシントンDCの峰先生に日経の山中氏がネット越しにインタビューを基にしたものなのですが、その形式がかえって新型コロナやその報道に対する一般人の疑問に理解しやすい道筋を示してくれています。

 大きく4つのパートに分かれています。ます、新型コロナに対するインフォデミックともいうべき混乱を整理し、これまでの感染や被害をまとめながら、どの程度のパンデミックであるのか基本再生産指数や致死率、重症化率を丁寧に解説、やたらに恐れるべきものではないけど単なる風邪でもない。軽症者・無症状者からの飛沫感染エアロゾル感染の予防がなにより重要で、3密対策を含めてこれまでの日本の対応は結構うまく行っていることがわかります。

 2番目のパートはワクチン、今回世界中で接種されようとしているのは人類史上初の核酸ワクチンの実用化であり、かなり最先端のものなんですね。いわば緊急事態だということで最先端技術の世界的な社会実験が行われているようなものなんです。本来必要とされるプロセスをすっ飛ばしての接種であることを理解して、接種が先行している欧米・イスラエルで効果や副反応の発生を見る必要があります。欧米のように死者数が多ければワクチン接種ののリスクをとることは合理的と言えますが、日本の死者数レベルであれば先行国の結果を見ながら考える、あるいは旧来型の不活化ワクチンの開発を待ってもいいのではないかという話も納得です。ネットでの情報ですが、峰先生自身は米国在住というリスクなどから最近モデルナ社のワクチンを接種したようです。

 3番目のパートではPCR検査について、事前確立や偽陽性率・偽陰性率など新型コロナに関するデータもそろってきた現時点からみれば、「検査を拡充せよ」「無制限の検査体制」という意見がいかに的外れなのかよくわかりますね。PCR検査陰性を免罪符のように扱うことも3割という偽陰性率を考えたら疑問だらけです。

 そして最後のパートは新型コロナに限定せず、この情報化社会における情報リテラシー、つまりどうやって情報を集め、吟味し、咀嚼し、自分の決断や行動につなげていくのかという深い話になります。医学知識だけではなく、金融商品や保険商品、政治とのかかわり方も含めて、玉石混交の情報の渦のなかからどういうふうに情報を選び取るのか、どういう情報なら信じていいのかを真剣に考える、そのときのわれわれ自身の思考のありかたについての議論です。結局、新型コロナで多くの言説が飛び交う中、自分の頭で考えないといつまでたっても安心はできない・・・それは情報があふれる現代に生きるわれわれが身に着けざるを得ない態度だというわけです。

 そして、驚くべきことにこの本の最後に「この本を読んだ人が本を閉じてまず最初に考えるべきこと」として・・・「本は読んだけど峰とY(山本)さんから聞いたことを、本当に丸呑みにしていいの?」という疑問をもつべき・・・うーん、参りました。知的な推理小説を読んだかのような読後感。新書とは思えない充実感でした。峰先生、次作も期待しています。(査定職人 ホンタナ Dr. Fontana 2021年2月)。

ノマド 漂流する高齢労働者たち

日本でも車上生活ノマドは増えてるのでは?

ノマド 漂流する高齢労働者たち

ノマド 漂流する高齢労働者たち

 

ワーキャンパー(Work-Camper)とは、定住する家を失いキャンピングカーで移動しながら季節労働や某巨大ネットショップでの仕分け重労働で生活費を稼ぐ人たち。リーマンショックやら格差拡大で増えているらしい。特に60代70代の高齢白人(黒人がワーキャンプするのはアメリカでは危険)。

この本は、そういうワーキャンパー・ライフへのまあ言ってみれば潜入ルポ。ビーツ(砂糖大根)の収穫や某巨大ネットショップの潜入ルポでもあるが、どちらかというとワーキャンパーの生態ルポが中心。

そういう生活に落ちていく人自身にも問題はあるだろうが、落ちてしまいやすい社会が簡単に作られることも事実。総中流と言っていた日本でも非正規労働者が増えて高齢化していけば家を失っても不思議ではない。

現に、車上生活をしている人のドキュメンタリーをテレビでやっていた。日本の場合は軽自動車でやっている人もいるのはお国柄か。

そんなことにならないようにしなけりゃなあ、としみじみ。楽しい本ではない。

(2024.3.25追記)2021年にこの本を原作とした映画「ノマドランド」が作られヒット。アカデミー賞などを総なめ。↓

新型コロナとワクチン 知らないと不都合な真実

 新型コロナ本の真打!

「新型コロナ」本・・・うんざりですか?たしかに書店をのぞくとコロナ本があふれていますが、逆に増えすぎて何が何やら、みんな好き勝手なこと言ってるんじゃないの・・・という状態になってますね。それはテレビやネットも同じで、何を信じていいのかわからないという人も多いのでは。

そんな中、科学的で冷静な分析力が感じられ、信頼に足ると思えたのがこの「新型コロナとワクチン 知らないと不都合な真実」です。ちょっと怪しげなタイトルですがそれからは想像もつかないほどの良書でした。ワシントンDCの峰先生に日経の山中氏がネット越しにインタビューを基にしたものなのですが、その形式がかえって新型コロナやその報道に対する一般人の疑問に理解しやすい道筋を示してくれています。

大きく4つのパートに分かれています。ます、新型コロナに対するインフォデミックともいうべき混乱を整理し、これまでの感染や被害をまとめながら、どの程度のパンデミックであるのか基本再生産指数や致死率、重症化率を丁寧に解説、やたらに恐れるべきものではないけど単なる風邪でもない。軽症者・無症状者からの飛沫感染エアロゾル感染の予防がなにより重要で、3密対策を含めてこれまでの日本の対応は結構うまく行っていることがわかります。

2番目のパートはワクチン、今回世界中で接種されようとしているのは人類史上初の核酸ワクチンの実用化であり、かなり最先端のものなんですね。いわば緊急事態だということで最先端技術の世界的な社会実験が行われているようなものなんです。結構本来必要とされるプロセスをすっ飛ばしての接種であることを理解して、接種が先行している欧米・イスラエルで効果や副反応の発生を見る必要があります。死者数が多ければワクチンのリスクをとることが合理的と言えますが、日本の死者数レベルであれば先行国の結果を見ながら考える、あるいは旧来型の不活化ワクチンの開発を待ってもいいのではないかという話も納得です。峰先生は米国在住というリスクなどから最近モデルナ社のワクチンを接種したようです。

3番目のパートではPCR検査について、事前確率や偽陽性率・偽陰性率など新型コロナに関するデータもそろってきた現時点からみれば、「検査を拡充せよ」「無制限の検査体制」という意見がいかに的外れなのかよくわかりますね。PCR検査陰性を免罪符のように扱うことも3割という偽陰性率を考えたら疑問だらけです。

最後のパートは新型コロナに限定せず、この情報化社会における情報リテラシー、つまりどうやって情報を集め、吟味し、咀嚼し、自分の決断や行動につなげていくのかという深い話になります。医学知識だけではなく、金融商品や保険商品、政治とのかかわり方も含めて、玉石混交の情報の渦のなかからどういうふうに情報を選び取るのか、どういう情報なら信じていいのかを真剣に考える、そのときのわれわれ自身の思考のありかたについての議論です。結局、新型コロナで多くの言説が飛び交う中、自分の頭で考えないといつまでたっても安心はできない・・・それは情報があふれる現代に生きるわれわれが身に着けざるを得ない態度だというわけです。

そして、驚くべきことに最後のこの本を読んだ人が本を閉じてまず最初に考えるべきこととは・・・「(この)本は読んだけど峰とY(山本)さんから聞いたことを、本当に丸呑みにしていいの?」という疑問をもつべき・・・うーん、参りました。知的な推理小説を読んだかのような読後感。新書とは思えない充実感でした。峰先生、次作も期待しています。