El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

テスカトリポカ

ナルコス+アステカ+臓器売買

メキシコ麻薬戦争+世界のナルコス(=ドラッグ・マーケット)、そこに関わる日本人、そんな群像をフィクションで読む。フィクションながら、いやフィクションだからこそ、以前読んだドキュメンタリー「ナルコスの戦後史」↓をよりリアルに感じられる。

そこに、ラテンアメリカ特有の征服民・被征服民という構造がからんで、アステカの怨念が混乱する社会を作り出していく。実際問題として、人種間の混淆がすすむラテンアメリカにおける人種問題は、日本人には想像がつかない。

と、聴いていたら舞台は日本へ。メキシコを逃れて流れ着いた女性が産んだ混血のコシモとメキシコ麻薬戦争で敗北を喫して脱出してきた男が日本で出会う。その出会いには東南アジアにおける臓器売買というブラックビジネスが関わっている。

臓器売買における「心臓」と、アステカのいけにえの「心臓」を捧げるところがシンクロする。と、まあ、荒唐無稽にはなっていくものの、裏社会のビジネス繁栄のうらに滅亡したアステカの呪いを重ね合わせてつきすすむクライム・エンターテインメント。

南米の征服された民族のうらみつらみが現代社会に犯罪として吹き出ている、というアイデアは初めてきいたが、そういう説があるのかないのか・・・・。(直木賞受賞作)