西ヨーロッパ人がここまで他の人種に対して残虐でいられる理由がわからない
「すべての野蛮人を根絶やしにせよ」ー『闇の奥』とヨーロッパの大量虐殺
歴史観がかなりクリアになる、名著。構成が凝っていて最初は面食らうが、わかって読み始めると近代史の謎の部分に光があたりモヤが晴れたような気分になれる。
南北アメリカ、オセアニア、アフリカそしてアジアの大部分で行われたヨーロッパ人による大虐殺による民族絶滅。実際に絶滅した、アメリカ先住民、タスマニア人、アボリジニ。
そんな残酷な行為を可能にした思想的背景、キュビエーライアルーダーウィンーウォレスーラッツェルーヒトラーという思想の系譜。進化論にはその根本から優性思想が内包されていたわけだ。劣った種族は絶滅する運命にあり、それを促進することが彼らのためでもあるー。
ヒトラーのユダヤ人虐殺は特殊ではない、同じことはヨーロッパ人によって100年前から世界中で行われていた。今なお何食わぬ顔で超大国として存在しているアメリカやEUやロシアの勃興の原点は非ヨーロッパ人をしてきた歴史にある。ヨーロッパ人の残虐、許すまじ!
と、ついつい一人のアジア人として熱くなってしまうくらいの本。
「大航海時代」「黒人奴隷時代」「帝国主義時代」、どれも欧米人種の残虐さ傲慢さが根底にあるが、そのメカニズムは別物として理解すべき。現代は抑圧された人々が移民という形をとってヨーロッパやアメリカを侵略しなおしているとも言えるかも。
引用
ヒトラーの少年時代、ヨーロッパ人が持っていた人間観の主な要素のひとつは、”劣った人種”は自然の法則によって絶滅を運命づけられている、という信念だった。すぐれた人種はその絶滅を推し進めるべきだ、それこそが真の慈悲である、と考えられていた。P24
新たに侵略した土地に住んでいた先住民が飢餓や虐殺や感染症で死んでいくことを「絶滅の運命」と言い切るという心性はどこからきたのか。
(中国人が大砲を発明したが、住んでいる地域で脅威を感じなかったため、積極的利用にいたらなかった)十六世紀、発展が遅れていて資源にも乏しかったヨーロッパが、遠くからでも死と破滅をもたらす大砲を載せた船の専売特許を獲得するに至った。ヨーロッパ人は大砲の神となり、敵の武器の射程内に入るはるか前から、殺戮を繰り広げられるようになったのだ。P77
帆船時代は海岸に近づき艦砲射撃で殺戮。故に、占領地は海岸沿いに限定されていた。蒸気船時代になって川を遡れるようになると虐殺は内陸へと広がった。
ヨーロッパ各国は競うようにマスケット銃の使用をやめ、後装十を使うようになった。イギリスは紙製薬莢をもとに真鍮製の薬莢を開発した。これで輸送中も火薬は保護され、発砲時の煙は閉じ込められ、ドライゼ銃の三倍もの距離まで弾が飛ぶようになった。(中略)こうしてヨーロッパは、他の大陸の、考えうるあらゆる敵よりも優位に立った。P81
信長の長篠の戦いである。あれを世界レベルでやったわけだ。
新たな武器の助けを得て、植民地侵略はきわめてコスト効率のよい事業となった。必要とされる費用はほぼ、人を殺すための弾薬代にかぎられていた。P83
ダーウィン以後、人種こそがなにより決定的な要因であるという考えが広まった。人種主義は許容され、イギリスの帝国主義イデオロギーを支える主柱となった。P202
ダーウィンも優性主義的あった。
(貧乏人の子だくさん現象を受けて)人種間の戦いこそ、文明社会の活力を保って進歩を可能にする唯一の方法だ、とグレッグは考えた。文明によって自然選択の法則が通用しなくなった結果、われわれの人種が堕落していくのを防ぐには、ほかの人種を絶滅させるよりほかに道はない、と。
文明の悪影響で適者生存から逸脱して劣った集団や人種が増えていくという現実を是正するために、つまりヨーロッパ人に都合の良い形で適者生存を人為的に達成するために虐殺・・・。
それにしても、西ヨーロッパ人がここまで他の人種に対して残虐でいられる理由がわからない。残虐でいることで現在の地位を築いたことの裏返しなのだろうか。あるいは、内向きのキリスト教的博愛の逆説としての外向き異教徒への迫害?