El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

地図と拳

まぼろしの満州にまぼろしの都市を・・・少し長すぎ

夏の終わりに買った小川哲氏の直木賞受賞作「地図と拳」。Audible版「ゲームの王国」で惚れこんだ才能のその後を読む予定であったが、積読状態が続き師走になってようやく読むことができた。読了して辞書サイズの本が残った。

毎日少しずつという読み方のせいか、すこし冗長な感じもするのだが、読ませる力はある。明治維新以来の日本にとって満州(中国東北部)とはなんだったのか・・・。たまたま手に入れてしまった権益を守るために国が滅ぶことになっていくプロセスがうまく描かれている。

建築家の人間性がテーマのようにも読めるが、著者はそんな分野とどうかかわっていたのかよくわからない。人造石油や虎頭要塞などあの戦争の裏面史で知らなかったことを知りえた。

北海道人造石油 - Wikipedia

虎頭要塞 - Wikipedia

あの戦争をテーマにした本は、日本人の馬鹿さ加減に辟易して、読むと疲労感が残るのは自分が戦後第一世代のせい(戦後12年目の生まれ)で、ぼんやりと「戦争に負けた」空気を感じながら育ったせいかもしれない。世代が変わって、著者などはそうでもないゆえに満州舞台の物語を屈託なく書けるのかも。

ただし、エンディングに向けては著者自身もそうとう苦労したのではないか。アンチクライマックスな終わり方で小川哲らしい冴えはなかった。「ゲームの王国」のほうが直木賞にふさわしいように思える。