El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

窯変源氏物語(9)

㉟若菜(下)・㊱柏木

残り6冊。ぎりぎり今年のうちに読み終えそう。全体の分水嶺といえる「若菜」(上・下)。

若菜(下)・・圧巻の女性たちによる雅楽セッション。読み応えたっぷり、そして源氏の到達点は・・・

理想とは、何だったのだろう?
「理想とは、その狩り求め追い立てる状態をこそ呼ぶのだ」とは言わなかっただろうか?
その狩りを遂えてしまった者の後は?
狩りに出て、仕留めた獲物のその後に放つ匂いは、腐臭。
それを知る狩人の手は、汚れに犯されぬほど、勁(つよ)い。
偽りを踏まえて立つ理想のその先は?

「紫の上」と「女三宮」、二人の間で気をつかい、一旦は雅楽セッションで融和が見られたかに思われたが・・・源氏との愛を否定するかのような「紫の上」の出家願望、そして病。病の世話をしている間にこんどは柏木(太政大臣の長男)が、あろうことか女三宮のところにしのび思いを遂げ、女三宮は妊娠。さらにはその不義の証拠となる手紙を源氏が読み、その不義がバレているという事実を柏木が知り驚愕・・・と、ほころびの連鎖の末、柏木は死の床へ。

柏木・・右衛門の督(柏木)が倒れ死ぬまで。内親王・二の宮(三の宮とは腹違い)を妻としながら、より血筋のよい三の宮にあこがれ、想いを遂げてしまったばかりに奈落の底へ。恋に恋して・・・

人は、己の思いの中に進んで恋を仕掛け、その中に溺れて行くものであるのかもしれない。

一方、三の宮は不義の子を出産。柏木の死もふまえて出家を希望、そこに父・朱雀院が現れ源氏の意向を無視して出家させてしまう。こうして源氏の周囲の女性たちも歳をとって源氏から離れていく。