El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

間宮家の皮膚科医

皮膚科医三代のフィクション+皮疹の診かた

不思議な構成の本。著者は浜松医大や産業医大で皮膚科教授をつとめた皮膚科医・戸倉新樹(とくら・よしき)先生。文学青年でもあったのだろう戸倉先生が書いたフィクションの皮膚科医三代記、フィクションではあるが、登場人物の間宮家皮膚科三代のうち、世代的には二代目が戸倉先生自身に相当し、その父が一代目、その息子が三代目ということになるのだろう。

フィクションの部分は、医学の変遷・進歩を織り込みながら、二代目医師間宮倫太郎の研修医時代から留学・研究・大学でのポスト獲得など、ほぼ著者自身の経験に沿って進む中で、恋愛と別れ、別の出会いと結婚のあたりはかなりロマンティック。やや昭和男の身勝手さも感じられるし、皆が基本いい人ばかりで、いい人で居続けられるように他の登場人物が病気になったり死んだりするご都合主義的なところもないではない。とはいえ、シロウトの創作としてはなかなかのもの。特に医学の進歩による皮膚科診断学の変遷をうまく筋書きに落とし込んでいるところは専門性がうまく表現されているし、AI診断や新型コロナも上手に組み込まれている。

とはいえ、それだけならこうして出版されるレベルのものではないかもしれないが、この本を特異なものにしているのは皮膚科診断学をストーリーに織り込んでおり、物語の章立てに並行してカラーページで相当する皮膚病変のちょっとしたテキストになっているというところ。つまり、ストーリーの中に皮膚科疾患が織り込まれ、その疾患の解説がストーリーとは別建てで挟み込まれている。フィクションと皮膚科、併せて一本という構成になっているのだ。皮膚科部分は一般人には難しいが皮膚科以外を専門とする医師が皮膚科の基礎を身に着けるには役に立つレベル。

なによりも、読み通すと自分が皮膚科医としての人生をおくってきたかのような気になれる、そういう意味では不思議な本。