El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

睡眠専門医がまじめに考える睡眠薬の本

現時点では原理的にはラメルテオンがいいのかなあ・・・?

医師向けに書かれているが睡眠のメカニズム部分がよりわかりやすいのでレビューしてみる。ただし著者は「睡眠薬はあくまでも対症療法であり、慢性不眠症の根本治療にはならない、根本治療は認知行動療法である」ーという立場。それはそうだが、現実の高齢者(含む認知症)に「認知行動療法」は無理。日本の現状はアメリカで富裕層の不眠を治療するのとは話はちがう。

下の図のように睡眠は「体内時計系」(主に概日リズム)というシーソーの上で「睡眠中枢」と「覚醒中枢」のバランスによってもたらされている。

「睡眠中枢」は脳内に豊富にあるGABA(ガンマアミ酪酸)が伝達物質であり中枢そのものはVLPO(腹外側視索前野)にある。GABAは脳全体の活動を抑制することで恒常性維持を担っており、VLPOにGABAが作用することで「睡眠中枢」が活性化=睡眠方向へバランスが振れる。

「覚醒中枢」は多領域に分散しており神経伝達物質も複数ある(オレキシン・ヒスタミン・アセチルコリン・セロトニン etc)。これらの複数伝達物質で複数の中枢が活性化することで覚醒する方向へバランスが振れる。

「体内時計系」はシーソーの支点にあたり、外界の光刺激を中心とした概日リズムによって支点が移動し、朝になれば「覚醒系」に傾きやすくし、夜になれば「睡眠系」に傾きやすくする。

これとは別に脳幹部にREM睡眠を起こすための中枢がありその神経伝達物質はアセチルコリンである。覚醒からGABAによる睡眠刺激でnon-REM睡眠となるが、脳幹部へのアセチルコリン刺激でREM睡眠に移行する。この脳幹部中枢にオレキシン・セロトニン・ノルエピネフリンが作用するとアセチルコリンの作用が抑制されることでREM睡眠状態がnon-REM睡眠状態になり、一つの睡眠の中でnon-REM→REM→non-REMというサイクルを繰り返す。

  1. ベンゾジアゼピン系睡眠薬はGABAと同じ働きをし脳全体の活動に抑制的に働くことで睡眠に傾かせる。睡眠中枢だけでなく同時に他のさまざまな部位をも抑制してしまうので転倒などの原因となる筋弛緩作用や抗不安作用があり依存性にもつながる。
  2. メラトニン作動薬(メラトニンやラメルテオン)は体内時計系の支点を睡眠系優位側にずらすことで睡眠に傾かせる。
  3. オレキシン拮抗薬(ベルソムラやデエビゴ)はオレキシンによる覚醒中枢刺激をブロックすることで覚醒系を抑制し睡眠に傾かせる。オレキシン作用に拮抗するので睡眠の中身で考えるとREM睡眠が減少する?→脳の疲れはとれない?

2.3.はこの睡眠シーソー以外には作用しない(と、現時点では思われている)ので、1が持つような副作用(筋弛緩や依存性)が少ない。2.では睡眠がnon-REMに傾くので睡眠の質には影響があるのかもしれない。・・・と、まあこんなところがまとめだろうか。

図は下記のサイトから転載

薬剤師会講演会 | のむらニューロスリープクリニック(内科・神経内科・睡眠障害外来)