El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

時計遺伝子

体内時計研究の一代記

「睡眠の科学」で睡眠そのもののメカニズムや意義はかなりわかった。では朝目が覚めて夜眠くなる、そうしたリズムはどうやって作り出されているのだろう。それがしりたくて「時計遺伝子」を読んでみた。

岡村均氏は京都府立医大出身の医師・研究者で震災の頃の神戸大学、その後は京都大学で「時計遺伝子」の研究一筋、国内の第一人者。「時計遺伝子」については2017年のノーベル医学・生理学賞が時計遺伝子を発見したホール、ロスバッシュ、ヤングの3氏に贈られており話題としても新しい。一方で、岡村先生はノーベル賞に食い込めなかったのか?そのあたりの距離感はイマイチ本書でもわからなかった。

すべての細胞に時計遺伝子はあるのだが、その原理はこの遺伝子が発現して時計タンパクが作られ、時計タンパクが増えるとそれが遺伝子の発現のブレーキとなり、一方で時計タンパクそのものも細胞内で壊れていき、濃度が下がれば再び時計遺伝子から時計タンパクが作られる、そういう一連のサイクルが時計の振り子にあたる。

地球上の生物のこのサイクルはもちろん自転にあわせて24時間になっている、というか、サイクルが24時間のタンパクが淘汰を勝ち残り時計タンパクになったのだろう。

ではそのサイクルのコントロールはどこで?細胞がそれぞれバラバラに24時間リズムというわけではない。そのセンターが視交叉のすぐ上の脳にある視交叉上核という部位。朝になって網膜に光がはいるとその情報が伝わる。視交叉上核にも視交叉上核の時計遺伝子Per1が発現すると光るようにルシフェラーゼを導入したマウスの切片がリズミカルに光を出す様子を初めて観測したエピソードは感動もの。

動画→ https://www.terumozaidan.or.jp/labo/class/s2_14/07.html

視交叉上核からは自律神経を介して副腎へ、リズムは副腎でホルモン濃度(糖質コルチコイド)に変換されて全身のリズムになっていくーというしかけ。この朝の太陽光の波長は400~500nmであり電球の波長とはかぶらないがLEDの波長とはかぶってしまう。これがブルーライト問題であり深夜のスマホの問題。LEDで体内時計がずれていく。

視交叉上核は日中は覚醒度を維持するための刺激を出している。これによって昼間は覚醒して夜は眠る。この体内時計によってもたらされている一日のリズム=概日リズムのずれを修復するのがメラトニンであり、メラトニンを利用した睡眠異常の治療薬につながっていく。

まだまだ、時差ボケのメカニズムなど時計遺伝子・体内時計で解明された面白エピソード満載。すべてが著者の実際の実験に基づいて書かれている。

時計遺伝子・体内時計と睡眠障害の関係を知るための良書。