El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

窯変源氏物語(5)

⑮蓬生・⑯関屋・⑰絵合・⑱松風・⑲薄雲

全体像を俯瞰する。全54帖中、14帖まで読み進んできた窯変源氏物語。㉝藤裏葉までの33帖が「第1部」でそのうち㉒玉鬘~㉛真木柱を「玉鬘十帖」といい派手な展開がないため「難所」と言われている。そして㉞若菜(上)~㊶幻までの8帖が源氏の中年から死までの「第2部」。残り13帖が「第3部」で源氏の子たちの物語、そのうち最後の10帖を「宇治十帖」と呼ぶ。いざ、難所へ・・

蓬生(よもぎう)・・ここまで源氏が関係した唯一の醜女「末摘花」はその後の10年間もただただ源氏を待っていた。源氏は10年ぶりにその荒れ果てた屋敷をたずね関係を持ち彼女を二条に建設中の屋敷の一画に住まわせることに。この後も過去の女性を屋敷に集めてミニハーレム化していくのだが、まあそもそも天皇の後宮はハーレムに他ならないのであって、これもまた平安の在り方。源氏の場合は天皇の子という立場と臣籍に降下したという立場をうまく利用してハーレムもあり、他所への通いもありという、いわばなんでもありの都合のいい状態。

関屋(せきや)・・一方、受領の夫と常陸の国に赴任していた「空蝉」とその弟「小君」が都に戻る途中で石山寺に詣でた源氏と遭遇。待ち続けた「末摘花」とは対照的にこちらはあっさりとすれちがう。過ぎ去った時の堆積・・。(空蝉もいずれはミニ・ハーレムの住人になるらしい)

絵合(えあわせ)・・光源氏30歳前後。伊勢の斎宮として下っていた六条御息所とその娘が代替わりで帰京。六条御息所は病となり娘の行く末を(関係を持たないようにクギはさしながら)源氏に託して死ぬ。源氏はその娘を斎宮の女御として冷泉帝(実は源氏の子)の女御として後宮に入れる。(かっての親友・頭中将である)権大納言の娘も女御として入内しており、源氏と権大納言のライバル関係が明確になる。宮中の「絵合わせ」というエピソードでそのライバル関係の火に油を注ぎつつもなんとも自己顕示から離れられない源氏。「叶わぬ事を望み、その望むことに意味を持たせることが出来るのは、自ら進んで事を起こしそれを手に入れることが可能な男だけだ(P146)」「学問は恐ろしい、学問は人に長寿と幸いを同時には齎さない(P199)」

松風(まつかぜ)・・源氏が建設中であった屋敷、二条の院・二条の東院が完成し、紫の上、花散里、末摘花・・とそれぞれの区画に住まわせる。さながら愛人マンション(?)の様相。明石の上もやっとのことで京(大井の里)に上京し源氏は娘と初対面。その娘の将来を考え娘を源氏と紫の上の養女とする。それにあたっては、まずは紫の上をうまく説得し、さらにとって返して明石の上を説得と、段階を踏んでいく。頭ごなしではなく十分言葉をつくしての問題解決であり、いわゆる「マメさ」がよく出ている。そして明石の上との間の娘も二条の院に移した。

男の寵に拠って生きるか、一切から拒絶された孤独に従って生きるか、その極端な二分法しか存在しない世界の中で、その中庸を求めて口を鎖す女達の数は、多分、想像以上に多い。(P206)

薄雲(うすぐも)・・(驚きの心理劇!ここまででは一番面白い帖)光源氏32歳、時の流れとともに人々が死んでいく。太政大臣(66歳・源氏の元舅)、式部卿の宮(50歳?・朝顔の父)そして藤壺の女院(37歳・冷泉帝の母)。不幸続きに冷泉帝の出生の秘密(帝が藤壺と源氏の間の不義の子であるということ)を僧都が帝に漏らしてしまう!帝(冷泉帝)の意外な反応(源氏に皇位を譲りたい・・)にとまどう源氏。自分の好色がまねいた複雑怪奇なトラブルに困惑する源氏・・・

ああ、それなのにそんな渦中にありながら、自分の養女として冷泉帝の中宮となっていた斎院の中宮(六条御息所の娘)が里帰りしてきたら、その斎院の中宮(=息子の妻)に言い寄ってしまうとは!好色の本能に突き動かされ、それを正当なことだと思うその人間性、それを作者は異常として描いているのか?よくわからない。結局その試みは失敗、源氏は都の反対側、明石の上のところで鬱憤晴らし?なんという男だ・・と思いながらも共感もあったり。