El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

DOPE SICK

拝金主義でタガが外れたアメリカ、それは明日の日本かも

DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機

DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機

 

 オキシコンチンといえばあのヒトラーも常用していたアヘン系アルカロイドの仲間でまさに麻薬。ところが、1990年頃から医療界にあった「痛みに対する治療をもっとちゃんとやろう!」という機運に合わせるように、溶けにくい基材で固めてゆっくりとしか吸収されないという工夫を施したオキシコンチンが鎮痛薬として認可・発売された。

薬発売した薬品会社、パデュー・ファーマはそれまでも麻薬系の薬剤(MSコンチンは日本でもおなじみですよね)が得意分野だったが、がんの末期患者などが主なマーケットで売り上げの上ではたいしたことはなかった。そこで徐放錠とすることで依存性をかなり低減(そのデータはかなりいい加減なものであったことは裁判などで明らかに)したオキシコンチンを市場に出し、それが普通の鎮痛剤として処方されるというとんでもないことが1990~2010年代のアメリカで爆発的に起こった。

オキシコンチンの大量処方で依存症者が激増し過剰摂取で死亡する事件が多発、歌手のプリンスや大谷翔平の同僚のピッチャーが急死したのもこれ。日本でもトヨタ初の外国人取締役として赴任してきた女性がオキシコンチンを持ち込もうとして警視庁に逮捕されるという事件があったが、オキシコンチンが家庭の常備薬のようになっているというアメリカのなんともすごい状況がその背景にある。

パデュー・ファーマが処方してくれる医師に接待攻勢をかけ、処方箋を書きまくる医師に歯科医と、つい最近の出来事とは思えない、いやこれがまさに今のアメリカなのかも・・。当然2010年頃から大問題になり大きな裁判がいくつも争われ、多額の和解金・賠償金がニュースになることも増えてきましたが、オキシコンチンであげた収益に比べれば和解金・賠償金は微々たるものらしい。

「若者たちは、朝一番でアデロール(ADHDの薬で精神刺激作用あり)を飲み、午後にはスポーツによる怪我の痛み用にオピオイドオキシコンチン)を飲み、夜には眠るのは助けるためにザナックス(ベンゾ系睡眠導入剤)を、何の躊躇もなく服用していた。その多くは医師によって処方された薬だった。」(197ページ)・・どうですか、そんなアメリカの大学生の一日。

こんなことが21世紀になってのアメリカで現実問題として起こっているわけで、今のアメリカは明日の日本かもしれない。いや、アメリカの巷にあふれるオキシコンチンは日本にも大量に持ち込まれている可能性も大きいのでは? この本を読んで、芸能人の急死のニュースを聞くと「過剰摂取なんじゃないの?」と思うようになってしまった。医者と薬屋が麻薬をばらまく、なんともタガのはずれた社会がすぐそこまで来ているのかも、くわばら、くわばら。