――脱「おじさん」社会――
気楽に読める一般向けの本で、アンダーライティングに役立つ最新知識をゲットしよう。そんなコンセプトでブックガイドしています、査定歴23年の自称査定職人ドクター・ホンタナ(ペンネーム)です。豪雨の後に猛暑の夏休み期間中です。エンタメ系の脱おじさん社会をテーマにした松田青子さんの小説「持続可能な魂の利用」を読んでみました。アンダーライターとしての自立とおじさん社会の板挟みに息苦しさを感じている女性が読んでスッキリのまさに猛暑に一服の清涼剤でした。
この国から「おじさん」が消える・・・というフレーズににどっきりして、まさにおじさんが読んでみました。ストーリー的には、女性の立場からのおじさん社会の滑稽さや生きづらさが描かれ、それがやや強引な展開ではあるけれどあるアイドルによって転覆する。女性が読めば、まさに「おじさんあるある」なので共感も多いでしょうね。
女性の目から見れば、自分も含めて「おじさん」はこんな風に見えているんだとか、どんなところに「おじさん」を感じるのかが少しわかってきます。一方で、日本だけじゃないだろ、なんて「おじさん」的反論をしてみたりも。
最近の職場では(いや、家庭でも)上から目線にならないように気を付けなくては思うことも多く、読んでいて身につまされるし、うーん、これもアウトかというところも多い、それだけ自身のおじさん成分が多いということなんでしょうね。
いくつか抜書きしてみますと
・カナダ人エマの言―「日本って特に、悪い意味で、女性のことしか見ない国だよね。家父長制が徹底してるっていうかさ。女性にそうさせている男性の存在は無視して、女性だけを問題にして、非難することが当たり前になっている。そのシステム自体は絶対に問題視しない。これじゃ男性はまるで透明人間」・・・
・レディースクリニックで低用量ピルを処方される場面で―「日本社会は、女性が楽をすることに、快適に暮らすことに、選びとることに、なぜか厳しい目を向ける社会だった。女性が自分の体をコントロールすることを良しとしない社会だった」・・・
・カフェでバイトの子に「前よりもきれいになったね」というおじさんについて―「人の外見をいじってコミュニケーションを取ることに疑問を感じないタイプ」・・・
・若い女性の「オタ活」について―「魂を持続させて。長持ちさせて生きていかなくてはいけない。そのために趣味や推しをつくるのだ」・・・
コロナ禍でテレワークがすすんだこともあって、働くみんなの関係性がよりフラットになってきたように思います。そんな中で日本のおじさん社会ってどうなっていくのでしょう。さらにコロナ禍での政権の迷走もあって、まさに「おじさん」の政治家やおじさんに起用されたおばさん政治家(まあ、本書的にはこれも「おじさん」の一種)、あるいは経済界の重鎮おじさんのやることなすことが???になっていってると多くの人が感じているのではないでしょうか。それは本書が描く男社会の行き詰まりそのもの。
希望を感じるのは、すでに社会の裏側ではじわじわと脱おじさん化が進んでいるのではないかと思えることです。人々がネットやスマホでつながることで、おじさんによる「上意下達」や「分割して統治」が形式化して機能不全になりつつあるようにも見えます。男か女かにかかわらず人と人としてフラットな関係で行こうという若い人も増えている。われわれ「おじさん」も脱「おじさん」を目指さなければ。
「上から目線」「おじさん」「アイドルグループ」「オタ活」「デモ」など最新世相を盛り込んで読後感爽やかな脱「おじさん」革命ファンタジー。おすすめです。(査定職人 ホンタナ Dr. Fontana 2020年8月)