El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

ブックガイド(29)日本の医療はここが不均一!

 —— 日本の医療はここが不均一!——

日米がん格差 「医療の質」と「コスト」の経済学

日米がん格差 「医療の質」と「コスト」の経済学

  • 作者:アキ よしかわ
  • 発売日: 2017/06/28
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

気楽に読める一般向けの本で、アンダーライティングに役立つ最新の知識をゲットしよう。そんなコンセプトでブックガイドしております。査定歴21年の自称査定職人ドクター・ホンタナ(ペンネーム)です。今日のテーマは「日米のがん格差」。

「がん格差」とは、「がん治療の格差」のことです。アキよしかわという著者名からはいったいどんな人物かな・・と思いましたが、本書はかなりまっとうで面白い。著者は10代で単身渡米し、医療経済学を学んだ後、スタンフォード大に医療政策部を設立、欧米、アジア地域で数多くの病院の経営分析に従事という経歴です。日本の医療界に「ベンチマーク分析」を広めたことで知られる・・とあります。Global Health Consulting Japan会長。会社のHPを見るとなんとなくその仕事というのはわからなくもない。そのアキよしかわ氏が大腸がんになって日本で手術を受け、ハワイで化学療法を受けたという経験をとおして、日米のがん医療のちがいを的確に示してくれます。

最大の違いは、日本では病院ごと、さらには医師ごとの治療の「質」のバラつきが大きいこと。これに対してアメリカでは保険制度のちがいもあって「コスト」のバラつきは日本より大きいけれど治療の「質」はバラつきが少ない。これは、診療ガイドラインの遵守がアメリカではかなり厳格に守られているのに対して、日本では医師の判断でガイドラインを逸脱したり、ガイドラインに沿っているように見えて恣意的に医師側の都合のいいゾーンに割り振られるというようなことが起こっているから。なぜそんなことが起こるのかというと、それはそもそも、日本では医療機関の設備や人員のバラつきが大きく、ない袖はふれないから。そんなことがベンチマーク解析で統計的に明らかにされていきます。

その結果として、いい医療を受けるには、アメリカではいい保険に入っていることが必要なのに対して、日本ではいい病院、いい主治医にめぐりあえること・・・・いやあ、実感としてよくわかります。

もうひとつ面白いと思ったのが用語のちがい。本書の著者の大腸がんはRs(直腸S状結腸移行)部に発生したものだったのですが、これを日本では「直腸がん」と表現するのに対しアメリカでは「結腸がん」と表現する。この表現の違いでガイドライン選択のちがい(化学療法や放射線療法の要否)が出てきます。このような基本的な用語のそもそもの使い方で日米差があるのです。ということは、われわれが支払査定でWHOのブルーブックの表現がどうのこうのと言っているときに、そもそもの用語理解でWHOの本質からはずれている場合が結構あるんだろうなあ・・と。

ここ数年、日本の医療もガイドラインが充実してきているので日米差は小さくなっているのかもしれません。しかし、やはり医師である私でも・・いや医師だからこそ、自分や家族の病院選びのときの態度は著者がいうとおり・・・かなり吟味してしまいます。当たり外れは確かに大きいし、トンデモクリニックがあることもまた事実。まさに痛いところを突かれました。学ぶべきこと多い一冊です。
(査定職人 ホンタナ Dr. Fontana 2018年9月)

関連本・サイトなど

Global Health Consulting Japan