横しぐれの向こうに消えていくもの
過去と自分の間に時間が流れ、雨の向こうに見える景色・人物のように不透明なスクリーンがかかっていき、事実や記憶がすべてがぼんやりと(茫々と)したものになっていく。
その茫々の中から何かを取り出そうとすると、思いもかけず、知りたくなかった、あるいは意図的に忘れていたような、そんなことが浮かび上がってくる。いい思い出も悪い思い出も、茫漠の彼方にぼんやりと漂わせ、大人になって、そして歳をとる。
末尾の一文、「数知れない真実の断片に取り囲まれて生きるのがわれわれの姿だと認めたとて、それはわたしの名誉でも恥でもなからう。わたしは昭和十四年をすべて、茫々とけぶる横しぐれのなかに置くことにしようと思った」でピタリとタイトルにおさまる。