El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

窯変源氏物語(11)

いよいよ源氏後の源氏物語へ

〇雲隠・㊷匂宮・㊸紅梅・㊹竹河・㊺橋姫

源氏物語においては、源氏の死をあらわすタイトルだけで中身のない帖が「雲隠」だが・・・

〇雲隠(くもがくれ)・・窯変源氏物語では「雲隠」の帖には60ページの中身があり、その部分は作者・紫式部の独白となっている。読んではいないが「紫式部日記」をコンサイスにまとめたものだろうか。源氏物語の光源氏のモデルが藤原伊周であること、紫式部と藤原道長の関係、光源氏亡き後の世界を書こうと決意していく様子など、紫式部の執筆の過程が垣間見える。橋本治の筆が冴える。

㊷匂宮(におうのみや)・・女三宮の産んだ不義の子が「薫中将」、入内した明石の宮が産んだ三の宮が「兵部卿 匂宮」として成長20歳前後となる。物語の最初で言うところの光源氏の孫が「匂宮」であり、頭中将の孫が「薫」(世間的には源氏の子とされている)となる。

㊸紅梅(こうばい)・・「紅梅」とは柏木の弟・按察使大納言のこと。髭黒の大将の娘・真木柱はこの按察使大納言の後妻となっている。按察使大納言の前妻の子や真木柱の連れ子の姫君たちを兵部卿匂宮に嫁がせようと画策したり、匂宮の多情ぶりに警戒したりする。この頃の人々のありようを描いた本筋とはあまり関係のない帖。

㊹竹河(たけかわ)・・前帖が「真木柱」のその後、この帖は「玉鬘」のその後。夫・髭黒大将(真木柱の父でもある)は出世したものの早逝。残された玉鬘は経済的には余裕があるものの娘たちをどう嫁がせるかで悩む。上皇か今上か、それとも・・・。そんな中で薫の存在がクローズアップされる。それぞれの女たちはそれぞれに思惑を抱えるが、自分以外の心を知ることもなく・・・そうしたメタのない思考の限界ということか。

人とは、それぞれの物思いを内に抱え、ただそればかり心を彷徨わせて、己れならざる人の物思いには気づかぬものであるのやもしれません。

㊺橋姫(はしひめ)・・いよいよラストの10帖、いわゆる「宇治十帖」へ。薫20~24歳頃。桐壺帝の息子八の宮は処世術もなく宇治で隠棲している。隠遁生活の心得が知りたいと薫が通うようになるのだが、ある日偶然に八の宮の二人の娘の演奏を聴き、美しさに触れる。さらにこの八の宮家の老女房が柏木(=実は薫の実の父)の最期の様子をよく知るもので、それを薫に語り聞かせる。こうして宇治を舞台に新しい物語がスタートする。

全14巻中、残り3巻となった・・・今年もあと一か月、3巻全部はかなり苦しいが・・