El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

窯変源氏物語(10)

㊲横笛・㊳鈴虫・㊴夕霧・㊵御法・㊶幻

第二世代、柏木が死に、実直な夕霧が物語をすすめる。そして皆、それなりに歳をとり紫の上の死、そして源氏の死へと続く。一方で、第三世代としての薫と匂宮へのバトンタッチ。

横笛・・横笛とは柏木が遺品として遺したもの。その笛を実の子である女三宮が産んで源氏の子として育つ男児(後の薫)に遺したいのではないか・・・。源氏の長男・夕霧はのこされた柏木の妻・二の宮への恋慕を募らせながら、柏木の遺志をおもんばかって源氏に意見しようとする。実直な夕霧の人柄が出る。

鈴虫・・いよいよ源氏50歳。女三宮がなし崩し的に出家することになり、その準備、納得できない源氏の心理などが描かれる。お互いに自分の心の空虚を埋めることばかりを考え、相手の心の空虚に思い及ばす。

夕霧・・恋に恋する。源氏の長男・左大将(ハンドルネーム夕霧)、柏木の遺した妻・二の宮への恋に恋して無理押しする夕霧。理論派で堅物の夕霧は源氏の子として、源氏が作り上げた愛人体制への憧れや負けじ嫌いもあって不器用な恋に邁進。結果が出ないまま体裁だけは作られていき、妻の雲居の雁や愛人・藤典侍を巻き込んで、女たちのバトル。どうもバタバタしてしまうのは仕方のないことか・・・そうこうしているうちに源氏最愛の妻・紫の上が死ぬ。

御法・・実りの秋に避けられない「御法(みのり)」として人は死んでいく。紫の上42歳。死してなお美しい。徒に長引かせて80,90の老残の姿での死にあまりになれてしまった身としては、美しいまま死ぬ、それもまたよい引き際かと。源氏もいよいよ出家に向かうのか。

・・紫の上が死んで一周忌までの1年、季節の移ろい、尽き果てぬ源氏の思い。生きることと死ぬことと、そのあわいにある出家と重ね合わせながら幻のように日々は流れ一周忌がすんですぐの年末で52歳の源氏は出家へ。

物思うと過ぐる月日も知らぬ間に 年も我が世も今日ぞ尽きぬる