El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

『細雪』とその時代

阪神間で暮らすということ

10年ほど前に現在の住居であるマンションを購入したが、それまで縁のなかった阪神間を「終の住処」とすることへの躊躇がなかったわけではない。九州から関東へ、そして関西へ、無縁の土地で暮らすことへの不安を解消しようと10年前に阪神間が舞台の「細雪」読んだ。

その後、この小説の舞台である芦屋や住吉(現在は神戸市東灘区)を生活の場とし、さらに後には、小説中の蒔岡家がそうであったように、大阪の船場の職場に勤務もしたので「細雪」の世界はなんだか他人事ではなくなった。

俗に関西では、大阪で仕事をし、神戸に住み、京都に遊びに行く生活が理想と言う。交通の便が良くなったのでいまでは、遊びに行くのに奈良や琵琶湖や倉敷あたりも加えてもいいだろう。

本書「『細雪』とその時代」は2020年に発刊され、まさに「細雪」の副読本として最適。本のカバーは森英二郎さんの絵(版画?)なのだが私はまさにこの風景の中で暮らしています。

災害が少ない(実際、谷崎潤一郎も関東大震災後の混乱を避けて関西に移住した)と思われていた阪神間だが1939年の阪神大水害、1995年の阪神淡路大震災と大きな災害に見舞われてはいる。しかし、水害に対しては治水が施され、地震に対しては震災後再建・耐震基準の強化さらには断層型地震であり数百年に一度の頻度(確信はもてないが、その前の播磨国地震は868年)であり今後100年はまず安心ーなど、後付けではあるが安心の種を探している。

谷崎潤一郎が「細雪」を書いた時に住んでいた住居がわが家のすぐ近くにあり時々訪れている。Amazonのプロフィールページで机に向かっている写真を使っているがこの机が谷崎潤一郎の机。