El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

チ。ー地球の運動についてー

なかなか深い

話題の科学哲学漫画「チ。」全8巻。積ん読状態になっていたのでゴールデンウイーク前半、なんとか4月中に読了。

15世紀の話。地動説をめぐって繰り広げられる人間模様。キリスト教が地動説を異端の考えとした(その事実もまた話の終わりころには相対化されるのだが・・・)ことから、キリスト教内部での正統と異端の争い、中盤以降は無宗教者の出現、活版印刷と漫画とは思えない重厚なテーマを取り上げ、それをわかりやすい展開として描くー漫画の可能性を感じさせる作品。

ある信条での決死の行動が、それを上回りなおかつ内包してしまうような次の信条(=新しいパラダイム)の中で相対化され一見陳腐なものになってしまう。それは歴史上も何度も起こったことであるし、個人の人生においても頻繁にあることだろう。「なぜ、あんなことにこだわっていたのか、あの頃は」みたいな・・・その繰り返しの中で問われる、「知る」ことの喜びとは、「神」とは・・・

日本人は大多数が無宗教なので(筆者の見解に過ぎませんが・・・)ここまで真剣に「神」のことを考えられない。作者はキリスト者だったのだろうか?実際に日本で生きていると無宗教であることの安楽さを感じることが多いが、「死」が近づいたとき、葬式仏教では「死」を受容できないわけで、そこに諸行無常という日本人独特の諦観が出現するのかもーと考え始めると結構深い話になってしまいますね。

科学史的には15世紀は地動説と活版印刷の世紀だったんですね。グーテンベルク(1398年頃 - 1468年)コペルニクス(1473年- 1543年)そしてルター(1483年- 1546年)へと続く。

なんにせよ、これだけのハードなテーマを、漫画なのに、いや漫画だからこそ描けるという、そんな漫画の可能性を感じさせる作品。