El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

延びすぎた寿命

21世紀は寿命が短縮する?

フランスの内科医による寿命論。全4部中、1. 微生物の時代、2. 医学の時代 は20世紀までにどのようにして寿命が延びてきたか。すでにレビューした「EXTRA LIFE」と同工異曲だがやや網羅的すぎてポイントがはっきりせず「EXTRA LIFE」に軍配。後半は現在から未来への警告という新しい視点。

第3部で論じられるのは医療経済とそれにともなう医療格差。長寿の結果高齢者が増えてくるとそれに比例して医療費が増大する。がん治療にともなう超高価な薬剤(抗体医薬など)の登場。それらを織り込んで医療の社会負担と個人負担の分配の問題ー所得が健康を左右する。また、タバコ、アルコール、肥満、運動不足という行動リスクもまた経済格差とリンク。

第4部ではアメリカ、イギリスの寿命の短縮。

アメリカの寿命短縮は主に中高年世代の死亡率の上昇による。これは上記の行動リスク、特に肥満と関係している。さらにオピオイドの過剰摂取と自殺(この二つは分別できないことも多い)。肥満が整形外科的疼痛を引き起こし、安易はオピオイド処方につながるという話もうなづける。

イギリスの健康悪化はアメリカと異なり乳幼児と高齢者の死亡率の上昇によるもので、イギリスの保険システムの慢性的な財源不足と社会的保護の弱さを反映している。無料のNational Health Service(NHS)が無料ゆえに即応的には機能しておらず、結局高額の私的医療機関を受診せざるを得ないなど、ここにも経済格差の影が・・。

とはいえ、日本の健康保険制度も巨額の財政赤字の上になりたっているわけで、安心はできない。近代医療が完備され限界長寿に近づいた国々はこの先、莫大な高齢者医療費をどうマネージメントするのかというあらたな課題に直面しているともいえます。これらの国々のこれからの高齢者はいわゆる第二次世界大戦後のベビーブーマー(日本では団塊世代)であり、その波をどう乗り越えるか、ということでもあります。

(後半の章立て)

第3部 21世紀の健康をめぐる3つの課題

  • 三倍長生きするのにいくらかかるか?
    • なぜ女性は男性より長生きなのか?
    • GDPの10%が健康のために使われている?
    • 健康の経済学
    • 健康支出が増加するスピードは平均寿命が延びるスピードより速い
  • 健康格差
    • 所得が増えるほど健康になる
    • 所得以外の社会的決定要因
    • 社会疫学の限界
  • 慢性疾患ー世界的な第一の死亡原因
    • 4つの行動リスクータバコ、アルコール、運動不足、肥満
    • 慢性疾患を軽減するために行動を変える
    • 新たな環境リスク
    • 死亡者の20人に1人は汚染に関係がある
    • 化学物質とその目に見えない汚染

第4部 21世紀ー後退

  • 後退する人間の健康
    • アメリカにおける平均寿命の低下
    • オピオイドの過剰摂取と自殺
    • 経済の衰退と健康の後退は部分的に関係がある
    • イギリスの健康悪化
  • 人間の健康に対する気候のインパクト
    • 気候はつねに健康にインパクトを与える
    • 3つのメカニズムー飢饉、感染症、社会の混乱
    • ユスティニアヌスのペストの気候的な要因
    • 気候に対する人間の関心
    • 人間の気候
    • 気候変動の間接的な影響
    • 不慮の死
    • 特異性の欠如
    • 地球の気候の未来
  • 進行感染症
    • 微生物疾患はなくなる?
    • 出現のメカニズム
    • パンデミックの時代
    • 予測不可能