El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

フーコン戦記

帰還せる兵士もみんな死んでいく昭和はるかな平成の末

フーコン戦記 (文春文庫)

フーコン戦記 (文春文庫)

 

 古山高麗雄戦争三部作最後のフーコン戦記が書かれたのは古山70代後半の頃か。古山自身はその数年後の2002年に81歳で亡くなっている。終戦の1945年当時、古山は25歳。フーコン戦記で描かれるビルマに放り込まれた兵士たちも同じような年齢であったろう。

幸運にも帰還できた兵士たちも老境に。そんな老境の帰還兵たちの今と、ビルマでの惨憺たる戦争時代、ふたつの時代を往還するのは古山の戦争三部作共通だが、老境にはいって、家族の死や認知症など、戦争を回想する際の要素も変化していく。戦争のことを語れる友人も減っていく。

2018年は戦後73年、当時の兵士たちは存命でも90歳以上となり、この本の中で、戦争のことを「古い」とか「じいちゃんの自慢」とか言っていた孫世代も立派な中年だ。三部作の最後で、流れ行く時、そして忘却・・。まさに日本版「失われた時を求めて」だなあ・・