El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

大君の通貨 幕末円ドル戦争

 

幕末「円ドル」戦争 大君の通貨 (文春文庫)

幕末「円ドル」戦争 大君の通貨 (文春文庫)

  • 作者:佐藤 雅美
  • 発売日: 2003/03/07
  • メディア: 文庫
 

知識という意味では結構面白い。また、歴史資料を精読することでこんな感じの歴史推理的なものが書けるということも面白い。少しでも違和感を感じたことを追求していくことが創造につながるということでもある。

この場合の違和感は幕末の金の流出が起こった事実についての過去の解説=日本的な通説があまりにも安易なものなので調べなおしてみたということ。答えは英米側の当事者たちが書いて出版した資料を読み解けば出てきたわけだ。

なんとも現代にも通じるのだが、幕府が銀を輸入して輸入価値の3倍の貨幣価値をつけて国内に流通させていたということ。差額で莫大な歳入を得ていたわけだ。幕末期には品位の低い銀貨=一分銀があたかも主力通貨のようになっていた。そのため一分銀4枚で一両金貨=小判1枚という交換レートは本質的には成り立たなくなっていた。ところがここに外国人が来てその矛盾を利用した(矛盾の存在理由はわかっていなかったように描かれている)。つまり一分銀4枚相当の銀で一両金貨=小判という公式交換レートを要求した・・・ということ。

まあ長年の幕府の錬金術(=錬銀術)が破綻したということ。公式レートで貿易するということになると、市中の銀貨の価値は3分の1になり、銀貨を通貨としていた武士は窮迫し、その結果としての幕府瓦解。