El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

苔のむすまで

それを私も言いたかった

「それを私も言いたかった」という文章が多く、微妙な反発心もありながら、結局あらがえずに読んでしまう、杉本博司氏の文章。

まるで、自分の分身であるかのようなーゆえに、反発も感じるし、自分の中にあるのと同じ俗っぽさをみつけて逆説的にそこがイヤになってみたり。

16のテーマで美術作品や骨董や杉本博司氏自身の作品をさすがの美しさの写真で紹介しつつその作品の来歴、あるいはその作品が取り上げているテーマの来歴を歯切れのいい文章で綴る。テーマの半分くらいが、私自身も興味深いと思っていることなので入り込める。そして最後にまた、最初のページから、あたかも美術的な作品集をみるように眺めることができる。

テーマの中では「直島」と崇徳上皇と淳仁天皇。この二人は生涯の最後を直島あたりで過したのだと。白河法皇が自分の養女(でもあり愛人)である待賢門院を孫の鳥羽天皇の中宮にしたときの白河法皇は66歳と今の私と同じ歳。待賢門院は18歳。66歳の爺さんが18歳の愛人を孫の結婚相手にして、その結婚後も関係があって子供まで作った。その子が崇徳天皇。つまり鳥羽天皇にとって崇徳は名目上は息子だが実際は叔父。このねじれが保元の乱となりいずれは武士の世の中になるわけなので年寄りの好色も笑い事ではすまない。

スケールはまったく違うが、このブックレビューを書いている私自身が読み返すとき、当たり前かもしれないが「すごくしっくりくる」し「それを私も言いたかった」という気分にもなって時間を忘れて読み進んでしまうことがある。杉本氏の文章を読むことはその感じにとても似ている。