El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

小さきものの近代1

渡辺京二氏の絶筆

昨年12月に訃報が伝えられた渡辺京二氏。死去の5か月前に出版されたのが本書。幕末・維新から大逆事件あたりまでの、教科書には出てこないような市井の人物の評伝をたどることで、時代の本質を描こうという、そんなシリーズになるはずだったようだ。残念ながらおそらくこの第1巻「幕末・維新編」限りになってしまったのだろう。

大きな社会の転換(この場合は明治維新)は、多くの場合既得権益層の入れ替えという形をとる。もちろん、一部の人間が「権益を手に入れて得をしたい」というのでは社会全体のうねり・運動にはできないので、社会を巻き込むための大きな「しかけ」(=共同幻想?)が必要。フランス革命の民主主義、ロシア革命の共産主義などなど。明治維新は西欧の進出に対する反応としての「尊王(攘夷のち開国)」というわけで、まさかの天皇復権だった。

全9章だが第5章「異国経験」でジョンマンこと中浜万次郎の略伝がかなりよくまとめられており、勉強して資料を読んで「おまとめ」を作ることの大切さをしみじみと味わいつつ、90歳を過ぎてもこれだけの知的活動をしていた渡辺氏に深い尊敬を捧げたい。