El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

ブックガイド(11)スマホって自閉的なのかも

——スマホって自閉的なのかも——

気楽に読める一般向けの本で、アンダーライティングに役立つ最新の医学知識をゲット!そんなコンセプトでブックガイドしています。査定歴20年の自称査定職人ドクター・ホンタナ(ペンネーム)です。

今回は、査定の現場でもさまざまなパターンにお困りに違いない「自閉症スペクトラム」を理解するための本、「自閉症の世界」。国内でも700万人の患者がおり認知症とほぼ同数とか。AD/HDやアスペルガーが日常語になりつつあり、ますます診断数は増えそうです。本書カバーからそのまま引用すると「20世紀半ばに研究が始まった自閉症。さまざまな誤解と偏見を経て、脳科学的に理解されるまでをたどりながら、知的障害ではなく、精神疾患でもない、感じ方や考え方が異なる人たち=自閉症スペクトラムの真の姿に迫る」と、まあそのとおりで読み応え充分です。

新書で600ページにわたる自閉症研究の通史になっており、第二次大戦前後の研究黎明期から現在までに自閉症概念が形成されていく過程を読み進めば、かなり自閉症のエキスパートになることができます。こうした医学の通史的な読み物は第8回の「がん-4000年の歴史」もそうでしたが、翻訳ものに良書が多いです。著者は医師ではなく科学ジャーナリストですが、じっくりと書き続け、それでいて個々のエピソードが物語にもなっていて飽きさせずに最後まで引っぱります。「レインマン効果」のパートなどは感動もので、例のダスティン・ホフマンの映画のDVDを借りて見てしまいました。

日本人が書いた本も何冊か読みましたが、医療者が自閉症者や家族に向けて書いているものがほとんどでなかなか真の姿が見えてこないんです(参考図書参照)。

なるほどと思ったのは、現代のネット・スマホ社会を作り上げたのは、ジョブスやゲイツなど自閉症(気味?)の天才オタクたちであったという事実です。その意味では、ネット社会・スマホ社会は自閉症に親和性があり、電車でスマホに熱中している群衆をみると世の中もまた自閉症化しているのかも・・と考えてしまいます。

自閉症は、教科書的なDSMによる診断学のほうから入っていくと混乱します。本書後半でも取り上げられていますがDSMの影響で自閉症の根本概念が変質していっているようにも感じられます。さらに日本では訳語の問題もあります。Pervasive Developmental Disordersに広汎性発達障害という日本語診断名をあてているのですがpervasiveってニュアンスがいまひとつです。広汎性≠広範性だということを専門家以外がどれだけ理解できているのか・・。まずは本書で自閉症の世界を旅することをおすすめします。自閉症スペクトラムの広さが見えてきて、わたし自身は査定方針的にはさらに不明瞭化してしまいましたが、それこそが自閉症のむずかしさなのだと感じました。(査定職人 ホンタナ Dr. Fontana 2017年12月)

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レインマン(字幕版)

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