El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

アルツハイマー病研究、失敗の構造

世界的に見ても胡散臭いアルツハイマー病治療薬

2023年6月9日アメリカのFDAがエーザイなどが開発した認知症薬「レカネマブ」の本承認を支持する見解をまとめた。日本でも8月21日に厚生労働省の専門部会が「レカネマブ」の承認を了承した。このレカネマブ、私は3重に胡散臭いと思っている(個人の意見です)。この本は、その3点のうち、主に下記③をテーマに書かれている。

①効果ありという治験結果が胡散臭い
レカネマブの効果とはどんなものなのか?レカネマブに有効性ありとする治験では、アルツハイマー病早期の患者に対してCDR-SBという認知症の程度を判定するスコアでの認知機能評価を最重要項目としている。CDR-SBでは0点から18点までの点数が月、高いほど障害が重い。治験対象患者は治験前のスコアが平均3.2だった。これが18か月後に、レカネマブ投与群では1.21の悪化(悪化ですよ!)、対照群では1.66の悪化。これは「悪化のスピードを27%遅らせ統計学的に有意」だという。ん?3.2点だった患者がそのままでは4.86点に悪化したけど、レカネマブ投与で11.21点の悪化にとどまった、ということらしい。これって点数で言えば18点中の0,45点にすぎないんですよ!「悪化のスピードを27%遅らせた」という27%は(1.66-1.21)÷1.66=0.27なんですが・・・これで27%遅らせたって言えるのか???1.66で割るのではなく18で割るべきなのでは、と素人目にも感じます(18点に対する悪化の低下率は2.5%)。研究者やメーカーがどうにかして「統計的に有意な効果がある」と言いたいがための数字のマジックでしかないと、私は思います。

②アミロイドに対する抗体の作用機序が胡散臭い
これらの認知症抗体医薬の開発の基本となるのはアミロイドβ仮説です。アミロイドβ仮説「アルツハイマー病の発症は、アミロイドが脳の中(ニューロンの中)にたまっていき、凝集し、βシート構造になって細胞内に沈着する。これがアミロイド斑(老人斑)で、それがたまってくると、ニューロン内にタウが固まった神経原線維変化が生じニューロンが死んで脱落する」という仮説です。そこで、アミロイドに対する抗体を作成して投与することでニューロンにアミロイドが蓄積しないようにするというのが多くの研究の方向性となっています。そして製品化されたのがアデュカヌマブでありレカネマブです。
ということは、これらアミロイドに対する抗体を投与した場合に生体内でどんな反応が起こって認知症の悪化の抑制がおこるのか、素人目にどうもよくわからない。アミロイドを内部にもつニューロンを攻撃するとニューロン自体が死滅することになるので、認知症は逆に進行するんじゃないの?と素人目に思えるのですがそこはどうなんでしょう。

③そもそも「アミロイド仮説」そのものが胡散臭い
①②の疑問を抱えながら、本書「アルツハイマー病研究、失敗の構造」を読む。

アルツハイマー病研究の歴史は、急いで治療薬を求めるあまりに袋小路に入り込み、道を失った物語でもある(中略)、アミロイド・カスケード仮説というたったひとつの仮説になぜここまでの勢いがついて、当時議論にのぼっていたさまざまな代替モデルをロードローラーのようにことごとく押しつぶすまでになったのか・・・

アルツハイマー病の定義自体が、薄弱な根拠をもとに構築され、特にアミロイドプラーク(脳における老人斑)を「原因」とする仮説のの破綻を覆い隠し、むしろ依存を強める方向に改変されてきた・・・

こうした流れが丁寧に明かされてゆき、そもそも「アミロイド仮説」そのものが胡散臭いのに、アルツハイマー病はアミロイドが原因という仮説が、定説かのごとくアルツハイマー病の定義そのものが改変されていくという恐ろしい話。

すでに過去にも取り上げた、驚きのニュースもつながる↓

2022年6月の「サイエンス」が「アルツハイマー病の発症原因にアミロイドβが関連しているという仮説の基本となる2006年のSylvain Lesné氏の論文について、研究結果の画像が操作され、結果が捏造されたおそれがある」と報じたのです。この研究論文はこれまでに2269本の学術論文で引用されているアミロイドβ仮説の根拠を支える重要論文でしたが、この論文が捏造かもしれないとは・・驚愕です。

どうでしょう、FDAや厚労省はごまかされても、常識的な医師がレカネマブを信じられるとは、私には思えません。みょうに礼賛する本もあるのだがあやしい。