El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

ブックガイド(25)その直感は間違っている!?

——その直感は間違っている!?——

かくて行動経済学は生まれり

かくて行動経済学は生まれり

 

気楽に読める一般向けの本で、アンダーライティングに役立つ最新の知識をゲットしよう。そんなコンセプトでブックガイドしています、査定歴21年の自称査定職人ドクター・ホンタナ(ペンネーム)です。今回のテーマは、なぜ直感でくだした査定判断は間違えるのか・・を行動経済学から読み解きます。

行動経済学」って?アンダーライティングと何の関係が?と、言われそうですが、かなり関係があります。アンダーライティング、特に引受判断では不確実な情報つまりグレーなものをもとにして、白か黒かの判断しなければならないのはご存知のとおり。そんなとき、ぎりぎりのところはで、自分の持っている知識や過去の経験から直感的に判断することがほとんどでしょう。ところが、こうした直感的な判断(ヒューリスティックといいます)って結構、間違っていることが多いんです。

行動経済学」と経済という言葉が入ってはいますが、本質は人間の判断にからむ心理学=「認知心理学」と考えたほうがいいでしょう。経済学では人間を「経済合理的な判断をする存在」として扱ってきたわけですが、それは買いかぶりで、やっぱり直感でかなり間違いおかしているんです。

そんな人間の間違いやすさを研究したのが本書の主人公、イスラエル人のカーネマンとトベルスキー。この研究は特に経済行動の分野で発展したこともあり、トベルスキーの死後、2002年にカーネマンはノーベル経済学賞を受賞しています。この本の著者のマイケル・ルイスはハリウッド映画にもなった「マネー・ボール」の原作者。「マネー・ボール」は、大リーグの選手発掘に統計手法を導入して貧乏チームを強豪に一変させるというドキュメンタリーです。「マネー・ボール」を読んだ行動経済学者から「この作家は、野球をよく知るスカウトたちがなぜ選手の能力を見誤るのか、もっと深い理由があるのをわかっていない」と批判されたことが本書執筆の発端となりました。

いわゆるプロの勘というものがいかに誤りをおかしやすいか・・・耳がいたいところです。似ているからといって安心する「代表性ヒューリスティック」、手近なものや見慣れたものを無条件で信じる「利用可能性ヒューリスティック」、・・「妥当性の錯覚」に「アンカリング」に「確証バイアス」などなど・・・(ひとつひとつは是非本書を読んでみてください)ああ、そんな間違い、あるあると思うことうけあいです。

本書はカーネマンとトベルスキーのライフ・ヒストリーをたどりながら、そうした人間の間違いやすさの解説をちりばめるという構成になっています。医学的判断にも1章があてられていて、「そうそう、自信満々でこういうまちがった判断をする人っているよなー」とすっかり納得しました。

恐ろしいのは、この間違いやすさを利用(悪用?)して、フェイク・ニュースやネット広告が我々を誤判断に誘導しようとしているということです。ブレグジットやトランプの逆転勝利など・・・我々の直感は行動経済学であやつられてもいるのです。あなたも「何でこんなもの買ってしまったのか?」ということありませんか。本書を入門書として、カーネマンのベストセラー「ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか?」まで読み込めば、沈着冷静なアンダーライターになれるかも。(査定職人 ホンタナ Dr. Fontana 2018年7月)

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