El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

富士山 Audible

新刊発売とほぼ同時にAudibleとは・・・読書世界もどんどん変化

平野啓一郎はかなりAudibleで聴いている。15年ほど前、東京の木場公園のすぐ横に住んでいた頃、木場公園で男の子を遊ばせる平野氏夫妻(元モデルの奥さま)に遭遇したことがある。あの子ももう高校生くらいか・・・。

さて本書「富士山」は、短編集。

  • 「富士山」 ――結婚を決めた相手のことを、人はどこまで知っているのか。
  • 「息吹」 ――かき氷屋が満席だったという、たったそれだけで、生きるか死ぬかが決まってしまうのだろうか?
  • 「鏡と自画像」 ――すべてを終らせたいとナイフを手にしたその時、あの自画像が僕を見つめていた。
  • 「手先が器用」 ――子どもの頃にかけられた、あの一言がなかったら。
  • 「ストレス・リレー」 ――人から人へと感染を繰り返す「ストレス」の連鎖。それを断ち切った、一人の小さな英雄の物語。

共通するモチーフは、「人間心理の偶然性」だろうか。自分の頭の中に想いが生じたとき、その想いを「内発的な必然の想い」と考えてしまいがちだが、そんなことはなくて、多くの選択肢の中からたまたま、その想いが頭をもたげただけなのだ。それなのに、そんな想いを「自分固有の価値ある考え」と勘違いしてこだわったり、突き動かされたりする。

時が経ってみれば、あの時「これしかない」と思ったことが、さまざまな他の選択肢から本当にたまたま選んだにすぎなかったことに、ふと気づいておどろく。