El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

この世界の問い方

秀逸の現代ロシア論・現代中国論・現代資本主義論

社会学者・大澤真幸(おおさわ・まさち)氏が朝日新聞出版のPR誌「一冊の本」に長期連載している「この世界の問い方」をまとめたもの。

第1章の「ロシアのウクライナ侵攻」ではロシア(≒プーチン)がなぜこんな戦争をしてしまうのかをロシアの心性から解き明かす。まあだいたいわかっているとこではあるが、西ヨーロッパに対するルサンチマンの発露ということにやはりなりますよね。

第2章「中国と権威主義的資本主義」が全5章のうち最もおもしろいし、現代中国論でもあり、資本主義論でもある。「民主主義+資本主義」が正しいものとして生きてきた身としては「権威主義+資本主義」のほうが効率が良くてうまくいっていることに驚く。民主主義を標榜している国々でもGAFAのような巨大IT企業が本来公共財であるべき人々の生み出す情報を囲い込んで有料化(まるで税のように)しているわけで、「民主主義+資本主義」とは言っても、その中でGAFAが権威主体になっているとも言える。GAFAにやられるくらいならその権威主体が政府(や共産党)であったほうが民主主義に近い?!という逆説。

日本社会は中国的なものの島国的変奏曲でもあり、本当は「権威主義+資本主義」のほうが効率いいのだろうな。高度成長期はそうだったのかも、などとも思う。民主主義とは言ってもそれは容易に安直なポピュリズムに堕してしまうのだから。