El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

ケルト人の夢

ロジャー・ケイスメントの人生 抑圧に気づくことの悲劇

ロジャー・ケイスメント(1864-1916)は実在の人物、19世紀末の植民地主義の終わりから20世紀初め第一次世界大戦の頃を生きたアイルランド人。アイルランド人とはいっても当時はイギリス領でロジャーも前半生はイギリス人として生きた。当時は南北戦争も終わり奴隷貿易も次第に終焉をむかえつつあったのだが・・・・。

折からの産業革命の中で天然ゴムの需要が高まり、ジャングルの原住民を奴隷として使い、ジャングルのゴムの木から天然ゴムを採取する形式の原始的で強烈に残酷な奴隷労働が最後の徒花として引き起こされたのもこの頃。

そのメッカが、遅れてきた専制君主ベルギー王レオポルド2世のアフリカ・ベルギー領コンゴとアマゾンの最深部(ペルー、ブラジル、コロンビアの領土の交錯するあたり)。この2カ所で読んでいてもぞっとするような残酷なことが行われた。

イギリス領事としてその両方の地で悲惨極まりない奴隷労働の実態を調査し告発し解消へと向かわせたのがロジャーその人で、その功績でナイトに叙勲される。

ところが、占領者による抑圧がもたらした悲惨を調査報告する中でロジャーは自身のアイルランド人というナショナリティもまたイギリスにより抑圧されているのにほかならないことに気づいてしまう。そしてアイルランド独立のためのさまざまな運動に参加していく。ちょうど第一次世界大戦の時代でロジャーは敵の敵は味方という論理でドイツの力を借りて独立を成し遂げようとするのだが・・・・イギリスにつかまり反逆罪で死刑に。

物語は死刑を待つ独房での回顧譚のかたちをとり、その魂はコンゴ、アマゾンそしてアイルランドとさすらう。同性愛者でパートナーへの恋心が判断を誤らせたり、ドイツの敗北を予想できなかったり、何よりもイギリス憎しで冷静な判断ができなかったなど、直情径行なところが命取りになるのだが、その性格がなければ前半生の活躍もなかったのだろう。人生は多面的・・

冒頭のエピグラフがそれを暗示している

我々の一人ひとりは。それぞれ一人ではなく、

連続する多数の人間なのだ。

そして次々と現れるこの連続する人格は、

互いに最も奇妙で驚くべき対照を見せるのが常である。

   ホセ・エンリケ・ロドー「プロメテウスのモチーフ」