El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

開かれた社会とその敵 【第1巻】プラトンの呪縛(上)

結構難解・・・

岩波文庫で500ページ超×4分冊の構成になるようだ(まだ1冊目しか出版されていない)。

ナチズムの虎口を脱したポパー(1902-94)は、亡命先のニュージーランドで、左右の全体主義と対決し、その思想的根源をえぐり出す大著の執筆に着手した。その第一巻では、プラトンを徹底的に弾劾、大哲学者を玉座から引きずりおろすとともに、民主主義の理論的基礎を解き明かしていく。政治哲学上の主著の全面新訳。全四冊。

構成は、第1分冊(本書)と第2分冊で第1巻「プラトンの呪縛」を、第3分冊と第4分冊で第2巻「にせ預言者ーヘーゲル、マルクスそして追随者」をカバーしている。500ページのうち本文は300ページで著者注が200ページあり、注だけでもそうとう読み応えがありそう。

第1巻には冒頭の序文と序章の間に「イマヌエル・カント 啓蒙の哲学者」という30ページの講演が収録されており、これだけでも相当に面白い。また、カントの位置づけとその後のヘーゲルとの関係をしっかり認識しておかないとこの後(特に「にせ預言者」のパート)の理解に関わってくるだろう。

そんなわけで、「イマヌエル・カント 啓蒙の哲学者」を読んだだけの段階だが備忘録としてここに記しておく。

カントの「啓蒙」と「人間の自由」分析の意味を30ページでキッチリまとめている。あまたあるカントの解説書との違いは、そうしたカントの哲学史のみならず文明史や政治史における位置づけ、とくにカント後の世界を席巻した全体主義や共産主義(そして、その道筋を作ったヘーゲル)との関係が明らかにされていることにある。

日本(だけでもないのだろうが)で書かれたカント本は、ヘーゲルの研究者が書いたものなどあったりして、カントとヘーゲルの関係についてポパーとは全く違う解釈もあったりする。その辺は、まさに「自分で考えなければ正解はわからない」ということ。