El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

東大教授、若年性アルツハイマーになる

老いゆけよ、我と共に! 最善は これからだ。

岩井晋先生は1947年生まれ、東大出身の脳外科医で独協医大の脳外科の教授(1996-1999)、そして東大の国際地域保健学教授(1999-2006)。2001年ころから記憶の低下などが出現しているので54歳という若さで発症した若年性アルツハイマー病。

2006年、東大教授を早期退職し沖縄に移住・療養。2010年、要支援1、2015年、要介護5と進行し、2021年1月誤嚥性肺炎で死去、73歳。

症状が出始めてからの苦悶、現実との折り合い、診断確定、早期退職。病名の公表、講演活動(失敗もあれば成功もあり)、病状の進行、そしてコロナ禍中の死まで。全体を奥様がつづったものが本書。

健常者からみた認知症患者の経過なので苦悩・苦労が多いのではあるが、エピソードごとにどこか救いを感じる表現もあって、読み通すとほっとできるのは、ご夫婦ともキリスト者だからであろうか。

それにしても要介護5と認定されてからでも5年以上の介護・看護が必要だったことを考えると、家族の苦労は並大抵のことではないだろう。お疲れさまでした。そして冥福を祈りたい。

冒頭の「老いゆけよ、我と共に! 最善は これからだ。」について、本書中に何度か出てくる。解釈は以下のwebsiteがわかりやすい。