El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

スピルオーバー ウイルスはなぜ動物からヒトへ飛び移るのか

COVID-19は必然だった!?

スピルオーバーとは、ある病原体が種から種へと飛び移ること。新型コロナに席巻された3年間を過ごしたあとではもはや常識となった、コウモリやハクビシン。それらを珍味として食べる人々。

原著は「人畜共通感染症」というテーマでナショナルジオグラフィック誌に連載されたものを集約して2012年に刊行したもの。未訳であったが、新型コロナのパンデミックを受けて補章を加えた完訳版が日本で出版された。この本のざっくりとした結論をそのまま引用すると・・・

私たちは多くの種の動植物が生息する熱帯林やその他の原始景観に侵入している。私たちは木を切り倒し、動物を殺し、あるいは檻に入れて市場に送っている。それらの動物の体内には、数多くの未知のウイルスがいる。私たちは生態系を破壊し、ウイルスを自然宿主から解き放っている。放たれたウイルスには新しい宿主が必要だ。時に私たちが、その新しい宿主となる。(補章「私たちがその流行をもたらした――新型コロナ」より)

ウイルスたちはなぜ、いつ、どこで、いかに種を超え人間へと飛び移り、大惨事をもたらしてきたのか。異種間伝播(スピルオーバー)を通じて爆発的に広がった疫病の実態とそれに挑戦する人々の苦闘を描く。章立ては・・・

Ⅰ 青白い馬――ヘンドラ
Ⅱ 一三頭のゴリラ――エボラ
Ⅲ あらゆるものはどこからかやって来る――マラリア
Ⅳ ネズミ農場での夕食――SARS
Ⅴ シカ、オウム、隣の少年――Q熱、オウム病、ライム病
Ⅵ 拡散するウイルス――ヘルペスB
Ⅶ 天上の宿主――ニパ、マールブルグ
Ⅷ チンパンジーと川――HIV
Ⅸ 運命は定まっていない
補章 私たちがその流行をもたらした――新型コロナ

「Ⅸ 運命は定まっていない」はインフルエンザを扱っているので、もはや事典的な膨大さの500ページ。次にパンデミックを起こし得る病原体の候補としてコロナウイルスを挙げていたのも注目。「Ⅷ チンパンジーと川――HIV」が100ページ超で「エイズの起源」とかぶっているのでオミットできる。