El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

決壊(下) Audible

辛く長い話の終着駅は稲毛

上巻だけを聴いて・・・もうその驚異の展開で消耗し、それでなくても寒い冬にこの本を読み続けては暗すぎると思い自主規制してきたが、冬休み期間に入ったので今年中に読んでしまおうと連日2~3時間Audibleで聴き、なんとか完走。

弟が猟奇的に殺害された。そこからは猟奇犯罪にともなって起こるすべてのことが描かれ切る。兄・崇(たかし)を容疑者とみたてての京都府警の執拗な取り調べ(冤罪社会)、傍若無人なマスコミ、ネット社会。

一方で、鳥取の中学生の異常性の増幅から次なる殺人の発生、そこから真犯人・悪魔こと篠原へとつながるも・・・お台場や渋谷で爆弾テロを起こし自死。事件的にはそこで決着だが、そこからが真骨頂、人生を決めるのは持って生まれた遺伝子と環境か、犯罪と精神医学、死刑反対論、救済されない被害者問題、執拗につづくマスコミとネットのさらし攻撃、おそらくは平野啓一郎の持論を悪魔が残した映像の中で、そして崇が語るかたちで、まさに隅から隅まで語りつくされる。

そして語りながら、その思考の中に落ち込んで捉われて自らも精神の異常をきたし最後には稲毛駅のホームで電車に飛び込む。

暗澹たる小説で、誰にでもすすめるというわけにはいかないが。ここまで現代社会を解剖しながら描ける作家がいることは伝えたい。やはりすごい、平野啓一郎。