El librero la Fontana

El librero la Fontana・ホンタナ(いずみ)氏の本棚「人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ 」(アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

ブックガイド(106)-やわらか頭の脳科学-

ーやわらか頭の脳科学ー  https://uuw.tokyo/book-guide/

気楽に読める一般向けの本で、アンダーライティングに役立つ最新知識をゲットしよう。そんなコンセプトのブックガイドです。第106回目のテーマは「やわらか頭の脳科学」。

脳科学といえばマスコミに登場するいったい何を研究しているのかよくわからない「脳科学者」と自称している人って多いですよね。実際に大学や研究施設で脳の研究をしている真の脳研究者もいれば、ニューロンやシナプスの微細構造を中心としたパターンを人工知能とからめて人間の脳を論じるAIの研究者もいれば、抽象的な話に終始する???な自称脳科学者もいて、脳科学ってうさん臭いと思っている人も多いかもしれません。

そんな時ふと手に取ってみたこの「バレット博士の脳科学教室 7½章」、これがまさに「脳とは何か」の本質がすっきりはっきり見えてくる一冊なのです。この本の特徴は、脳をいろいろ分解して考えるのではなく「脳全体の機能はなにか」そして「それを実現するために脳全体で何をしているか」という具合に脳全体でざっくりと考えてみる―これがポイントです。

脳全体の機能は、最初のLesson ½(序章にあたる)にあるように身体全体を維持するための予算管理、つまりインプットとアウトプットの調整管理なんです。その管理がいかにして実現されているかというと、脳全体がインプットによって適切なアウトプットを出力する可塑性のあるネットワークの固まりであるということにつきます。

ICや真空管もインプットに応じたアウトプットを出力するのですが、脳の場合は外からの刺激をうけることによってアンプ機能=ネットワーク自体が刻々とチューニングすること―つまり必要なネットワークは強化し、使われなくなってきたネットワークは減弱する―で実現されているのです。まさにインプットによって自己変革しながらアウトプットできるアンプとでも言いましょうか。

ちょっとわかりにくい説明になりましたが、自分の頭の中にある脳とはこれまで受けてきた刺激とその蓄積さらにチューニングによって作り上げられたネットワーク型のアンプにほかならなないということです。

7½章を階段をのぼるようによみすすめてみましょう。

  • Lesson ½ 脳は考えるためにあるのではない
     脳は身体のエネルギーを効率的に利用して生き残りを図る=身体予算を管理する)ために進化してきた。(「考える」力は結果的に生じた副産物にすぎない)
  • Lesson 1 あなたの脳は(3つではなく)ひとつだ
     大脳辺縁系や植物的脳と皮質脳を対立的に考える三位一体脳説の誤りを指摘し、脳は1つのネットワークであることを説く。(解剖学的にバラバラに考えてはダメ)
  • Lesson 2 脳はネットワークである
     脳はまさに「ところどころにハブを配置した効率的航空ネットワーク」に例えられる高次元ネットワークにほかならない。(ハブ=Hub:終結点)
  • Lesson 3 小さな(生まれたての)脳は外界にあわせて配線する
     ネットワークの配線は出生時にすでにもっている基本ネットワークの上に乳幼児期に外界(おもに親)と緊密に接することでほどこされるチューニングやプルーニング(pruning=不要部分の剪定)によって乳児期に急速に作られていく。そして、使えば使うほどネットワークができる。
    チャウシェスク時代のルーマニアで乳児院でのほったらかし乳児が蔓延し多数の発達障害児がうみだされたという事例は怖い。日本で最近一般化している乳幼児を保育園やこども園に預けてしまう育児法も子供の脳の発達を考えるとかなり怖い話かもしれない。
  • Lesson 4 脳は(ほぼ)すべての行動を予測する
     脳はその後の人生経験によってもチューニングやプルーニングを続けていく。何か行動を起こす場合も脳の中では過去の蓄積から行動前に(意識されない)予測がなされている。うどんを食べる前に「熱い」と予測して口のなかは「熱い」に備えている。机上の鉛筆を手に持つときロボットは位置を認識して拾い上げるが、人間はすでに鉛筆をもって書くところを無意識に予測しつつ拾いながらグリップして紙の上に運ぶという一連の動作を無意識にやる。
  • Lesson 5 あなたの脳はひそかに他人の脳と協調する
     乳幼児期を過ぎても、脳は他者とのかかわりのなかで主に言語によりチューニングやプルーニングを繰り返している。
  • Lesson 6 脳が生む心の種類はひとつではない
     脳のネットワークが心や気分をも生み出す。快と不快、活発と不活発などの気分は身体のシグナルとして脳のネットワークにフィードバックされ脳のネットワークの気分を変調する。脳→体・こころ→脳というチューニングの流れもある。
  • Lesson 7 脳は現実を生み出す
     脳はチューニングされプルーニングされたネットワークによって予測を行い身体行動を起こす。その身体活動の結果を新しい経験としてネットワークをリニューアルしていく。その繰り返しの結果によって、脳こそが今あなたの眼前に広がる社会的現実を生み出している。

考えるために脳があったのではなくて、人類以前から(イヌや類人猿やネアンデルタール人でも)、生きていくための身体の調整ネットワークとして脳が存在し、より効率的な調整ネットワークになるために視覚や聴覚を作り出し、その刺激がまたネットワークを作り出し、複雑にからみあったネットワーク機能の総合的な活動の果てに「考える」「思考する」というオマケがついてきた―ということですね。


生まれたての赤ん坊であった自分の脳ネットワークをいつくしみ育ててくれた両親に感謝すると同時に、自分は自分の子供の脳ネットワークをきちんと育てられたのだろうかと不安にもなりますね。(査定職人 ホンタナ Dr. Fontana 2022年11月)