El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

アルツハイマー征服

征服にはほど遠く、タイトルやカバー絵が。患者や家族に本書を買わせようというのが透けて見える。

アルツハイマー病の治療薬開発の歴史を年代ごと研究者ごとに並べてくれている。前半はエーザイがドネペジル(アリセプト®)の開発・商品化で世界的企業になるまで。基本的にはコリンエステラーゼ阻害薬であり、脳内アセチルコリンを増やすことで症状の改善をめざすもの。認知症の進行を数年遅らせる。

ただし、風邪に熱さましと同じ対症療法に過ぎないと言えばそのとおり。症例によっては興奮・不穏を引き起こし、それに対してクエチアピンのような抗精神病薬を使うことで、いったいなにをやっているのかわからないことになるということもある。

これしかないから使われるということもあるのだが、そもそもの必要性に疑問を呈する話も多い。(下記リンク)

そこで、多くの企業やエーザイが根本的治療薬の開発を目指す。その基本はアミロイド・カスケード・セオリーである。アミロイド・カスケード・セオリーとはアルツハイマー病の発症は、アミロイドが脳の中(ニューロンの中)にたまっていき、凝集し、ベータシート構造になって細胞内に沈着する。これがアミロイド斑(老人斑)で、それがたまってくると、ニューロン内にタウが固まった神経原線維変化が生じてくる。そうすると、ニューロンが死んで脱落するーという仮説。

そこでアミロイドに対する抗体を作成して投与してアミロイドが蓄積しないようにするというのが多くの研究の方向性。その中で製品化されたのがアデュカヌマブ。このアデュカヌマブやはりどこか胡散臭い。

アミロイドに対する抗体を投与した場合の反応系がいまいちはっきりしない。アミロイドを内部にもつ細胞を攻撃する?そうすると、細胞自体が死滅することになるのでは?と考えるがそこはどうなんだろう。

さらに、効果についてRCT(ランダム化比較試験)が行われているわけだが、アルツハイマー病に対する効果判定というのがいわゆる長谷川式を複雑にしたような認知症の対面テストであり定性的かつ再現性は?

つまり、アルツハイマー病は原因もいまいち不確定なのに、抗体医薬を作り、効果判定もいまいち不正確・・・と、私は思う。アメリカではロビー活動の結果なのか承認されたがさらにもめている。日本では承認されなかった。

いったん承認されて使われ始めると効果もあいまいなまま健保財政を食い荒らすことになる。薬剤開発をビジネスチャンスとしか捉えていないバイオベンチャーは本当に危険。

2022.9.11 追記

アミロイド仮説の初期の重要論文(2006)に不正があったと指摘する記事がScienceに掲載された。

https://www.science.org/content/article/potential-fabrication-research-images-threatens-key-theory-alzheimers-disease

そもそものアミロイド仮説がフェイクであった可能性が出てきて、もういったい何が何やら。記事を読むと2016年頃からこうした論文中の画像の改ざんを検出できるようになっているらしく、それをそれ以前の論文にも適用してみると・・・・。恐ろしい話だ。