El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

境界を生きる 性と生のはざまで

DSDを啓蒙する

身体的性と精神的性が一致しない性同一性障害については社会的にも大きく取り上げられ、戸籍の変更など法整備もされてきた。LGBTという略語も市民権を得たといっていいだろう。

一方で、身体的性そのものを確定することが難しい、あるいは出生時に外観で判断された性と真の(=染色体で決められる)性が一致しない場合は、性分化障害(DSD=Disorders of Sex Development)と呼ばれる。DSDについて本書によってもう少し詳しく書くと

――通常は(一個体の中で)男女どちらかで統一される性器や性腺、染色体の性別があいまいだったり、一致しなかったりする疾患の総称。(原因別に)70種類以上あり、2500-4500人に1人の割合で生まれる。――   とあり、全出生数から考えて日本では毎年300人のDSDの子供が生まれていることになる。本書では、5α還元酵素欠損症、先天性副腎過形成、クラインフェルター症候群、アンドロゲン不応症などの実例が取り上げられている。

本書は毎日新聞のDSDとLGBTに関する連載記事をまとめたもので、特にDSDについては、実例に基づいて診断、初期治療だけでなく、家族の対応、その後の医療によるフォローの必要性などを社会に問うという点で画期的な内容。

DSDは人類の長い歴史上ずっと一定確率で発生しているわけだが、染色体や遺伝子検査が一般的となった21世紀になって早期に診断されることになったので、まさに医療としては今日的な問題といえる。

オリンピックで選手の性別が問題になる場合、LGBTの場合もあるがDSDの場合も多い(セメンヤ選手など)。

早期発見したからといって完全に解決できるわけではないが、出生時の安易な性決定がもたらす不利益は身体的にも精神的にも大きい。産科だけでなく、相談を受ける小児科、泌尿器科などの医師にも啓蒙が必要であり、その入り口としては最適な一冊。

さらに詳しくということであればこの分野で国内では中心的な存在と思われる「大阪母子医療センター」監修の下記の本へ。