El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

アメリカの病

コロナ禍の中、重病になった著者の怒りで ちょっと冷静ではない?

これまでTimothy Snyderの本をいくつか読んできた。東ヨーロッパ史が専門で、そこからプーチンのロシア、さらにそのロシアが戦略的に欧米をダメ指導者の国にしようとしており、そのことの先に発生したブレグシットとトランプ大統領という災厄。

そんな著者が虫垂炎から肝膿瘍になったのだが、コロナ禍でもあり、まさにアメリカ医療の脆弱な部分にさらされることになった。アメリカ医療はHMOという保険会社と病院チェーンが一体化したいわゆる、利益優先の産業に変質しており、その中で患者はモノ扱い、医療者も疲弊していることがわかる。オバマケアで光明が見えたかと思ったがトランプが・・・。

著者のまさに重大な健康危機・生命危機がトランプにつながり、さらにコロナ禍への対応のダメさを糾弾することになる。これまで著書で書いてきたことがまさに自分の身に命の危機という形で降りかかってきただけに、その怒りは強い。

たしかにトランプのコロナ対応はひどいが、世界中を見ても、トランプではなくても大して変わらなかったような気がする。またアメリカの医療制度はトランプ以前の問題で2007年のマイケル・ムーア「シッコ」ではっきり描かれていたではないか。民主党だって罪がないわけではない。

医療制度に怒り、トランプに怒り、ネットに怒り・・・気持ちはわからんでもないが冷静ではいられないTimothy Snyderの姿を見た。元気になって、冷静な分析にもとづいた本をまた書いてほしい。