El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

リンパのふしぎ

分子生物学ネイティブではない世代の研究

例えば、血管系を表通りのメインルートとするなら、従業員用(関係者以外禁止)裏ルートがリンパ系という感じかな。タンパクや脂質、水分は通るが赤血球は通らないので酸素は少ない。リンパ球にとってはところどころにリンパ節という詰所があるエアシューターみたいな通路で、感染防御にとってはメインルート。

上腕の筋肉に注射したコロナワクチンが筋肉細胞に感染するのかと思っていたが、すぐにリンパ系に入っていくらしく、そこには巧妙なドラッグ・デリバリー・システム(DSS)上のしかけがあるようだ。本書ではリンパ系に親和性のある物質としてソナゾイドが挙げられ、それをDSSとしてつかったがんのリンパ節転移に対する化学療法については記載がある。

全体としては、リンパ系についての知識は増えたが、リンパのふしぎを解き明かすというよりは、72歳の著者が研究人生をかけてリンパのふしぎに取り組んできた、その研究一代記という趣き。自分が研究してきた部分はやたら細かいのだが、世間話みたいなエピソードも多い。そろそろ研究人生も終盤というところでしょうか、団塊世代で分子生物学ネイティブではない人にとっては研究人生そのものが途中で激変して大変だったかと思います。