El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

一九八四年

 Audibleで聴きました。

一九八四年〔新訳版〕

一九八四年〔新訳版〕

 

5月にAmaozn Audibleでダウンロードしていたもの。夏が過ぎてウォーキングしやすい季節になったので9月から今日まで歩きながら聴きました。

最初から最後までディストピア小説なので読後の爽やか感はありません。文字化することや言語の複雑性を排除していこうとする未来のイギリス(オセアニアという国名)が舞台なので、Audibleの音声で聴くのも味わい深いです。

初版は1949年の刊行です。オーウェルはスペイン内戦で反フランコ勢力を取材して反ファシズムとしての共産主義の中にもすでにファシズム的なものを見ていたことになります。当時はまだファシズムに対抗するものとして共産主義や社会主義を称揚する文化人も多く、オーウェルが動物農場と本書で共産主義を徹底的に風刺したことを裏切り者呼ばわりする声もありました。今よりずっと政治的な季節に書かれた小説です。

その後50年でソビエト連邦そのものが崩壊するとは泉下のオーウェルはどう思っているでしょう。もはや地球上で残っている共産主義国はイースタシア(中国)くらいになってしまいました。本書中でユーラシア国として描かれたソ連とその衛星国はバラバラになりましたが、プーチンのロシアはユーラシア主義で拡張策を取り始めています。

世界の混沌感は決して解決することはない、というより、1984的には解決させずに続けさせることこそが正しいのかもしれません。