El librero la Fontana

El librero la Fontana・ホンタナ(いずみ)氏の本棚「人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ 」(アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

ブックガイド(89)―エビデンスください!―

エビデンスください!―

 気楽に読める一般向けの本で、アンダーライティングに役立つ最新知識をゲットしよう。そんなコンセプトでブックガイドしています、査定歴23年の自称査定職人ドクター・ホンタナ(ペンネーム)です。今回のテーマは「意思決定のためのランダム化比較試験」(RCT=Randamized Control Test)。

ある病気を治療するのに治療法Aと治療法Bのどちらがより有効かという意思決定をする場合に、その病気の患者集団をランダムにAで治療するグループとBで治療するグループに分けて治療し、その結果からAとBどちらが有効であったか判断する、そんな手法をRCTと呼びます。まあ医学では当たり前のように使われています。しかしRCTの歴史はそれほど古くはなく、最近になっても常識と思われていたことがRCTで覆されることは多いのです。例えば膝の半月板の損傷において、関節鏡で本当に手術するグループと皮膚に傷だけつける偽手術のグループでRCTをしたところ症状の軽減に差はなかったという驚くべき結果も出ています。そうしたRCTの輝かしい成果をもとに Choosing Wisely(賢い選択)というムーブメントが起こりました(関連サイト参照)。

21世紀になって、そのRCTが医療に限らず社会のさまざまな分野における意思決定に使われるようになってきました。つまり社会のあらゆる意思決定の場面で、大きく何かを変える前に、小規模なRCTを実施してみてあたりをつけようというわけです。

これまで、政治にせよ企業活動にせよ意思決定は究極的にはボスの直感で決めることが多いですよね。これを「HiPPO(ヒッポ)=Highest Paid Person's Opinion(最も高い給料をもらっている人の意見(鶴の一声)」とよぶそうです。で、この鶴の一声、ご存じのように往々にして間違うんです。変化の激しい社会では、ボスが経験と勘に頼って判断を下せば致命的な、目的とは真逆の結果をもたらしかねません。

本書にある失敗例では、放課後プログラム(学童保育のようなもの)・・アメリカでは放課後プログラムでは逆に悪い仲間とつるみやすくなり犯罪率が上昇しました。また、ユヌス氏がノーベル平和賞を受賞したマイクロ・クレジット(少額融資制度)も高利貸しの被害者を増やす結果に、衛生改善のために町中にトイレを増やしても汚いスポットを増やすだけ・・といった具合です。

「人間は、いい話・よくできたストーリーに弱い」けれど、現実はストーリー通りにすすまないのです。ボスが自分好みのストーリーに沿って理屈で考えたものが予想外の結果に終わってしまう。そこで二者択一、「やるかやらないか」「AかBか」の判断にRCTをやってみようというわけです。本書にはそうしたRCTの事例が網羅的に収録されています。最も多いのが政策です。教育・就労支援・犯罪制御・衛生改善など。国が限られた予算の中でAをやるかBをやるかというときには小規模のRCTであたりをつけることがいかに重要かよくわかります。

目下のところRCTを日常的に取り入れているのがインターネット関連業界です。データを取りやすいこともありネットはRCTであふれています。Amazonで値段が猫の目のように変わるのも価格変動RCTなんですよ。

一方で、政治でも企業の経営判断でも日本的な根回し+鶴の一声で大失敗という例も数々見てきました。特に従来型の大企業ではなかなかRCTをうまくつかいこなせていないんじゃないでしょうか。まだまだ演繹的なストーリー中心主義が幅をきかせています。

例えば、細かいことにコストかけてやったほうがいいのか、コストかけない大雑把なやりかたとどちらがいいのかなんて議論してもわからないことはRCTをやってみれべきなのです。アンダーライティングで例をあげるなら、「健康診断書の評価作業」でコストをかけて重箱の隅までチェックした方がいいのか、コストをかけないで特定項目だけ見た方がいいのか、まさにRCTをやってみたら簡単に答えがでそうです。

エミネンス(Eminence=鶴の一声)の時代から エビデンスの時代に。21世紀の意思決定にはRCTです。(査定職人ホンタナ Dr. Fontana 2021年3月)。

 関連サイト

Choosing Wisely