RCTでEvidence!
RCT=Randamized Control Test(ランダム化比較試験)。ある病気を治療するのに治療法Aと治療法Bのどちらがより有効かという場合に、その病気の患者集団をランダムにAのグループとBのグループに分けて治療しその結果をみてAとBどちらが有効であったか判断するという手法、まあ医学では当たり前のように思えるが歴史はそれほど古くはないし、常識と思われていたことがRCTで覆されることは今でも多い。そうしたRCTの輝かしい成果をもとに Choosing Wisely(賢い選択)というムーブメントもありました。
例えば膝の半月板の手術について関節鏡で本当に手術するグループと皮膚に傷だけつける偽手術のグループでRCTをしたところ、症状の軽減に差はなかったという驚くべき結果も出ています。
21世紀になって、そのRCTが医療に限らず社会のさまざまな分野における意思決定に使われるようになってきました。これまでは、政策にせよ企業の意思決定にせよ究極的にはボスが決めるーこれを「HiPPO(ヒッポ)=Highest Paid Person's Opinion(最も高い給料をもらっている人の意見」とよぶんだそうですね。で、このHiPPO、ご存じのように往々にして間違う。変化の激しい社会では、ボスが経験と勘に頼って判断を下せば致命的な結果をもたらしかねない―いや実際にそういう事実を目にしますよね。
そこで2者択一、「やるかやらないか」「AかBか」の判断にはRCTということになる。―もちろん、原爆を落とすというようなRCTには適さない判断も多いですが。本書にはそうしたRCTの好事例が網羅的に収録されています。
もっとも多いのが政策です。教育・就労支援・犯罪制御・衛生改善など。例えば、放課後プログラム(学童保育のようなもの)の有効性は否定されました。アメリカでは放課後悪い仲間とつるみやすくなることのほうが悪い結果をもたらしました。また、ユヌス氏がノーベル平和賞を受賞したマイクロ・クレジットも高利貸しの被害者を増やす結果になりました。衛生改善のために町中にトイレを増やしても汚いスポットを増やすだけに。
「人間は、いい話・よくできたストーリーに弱い」けれど、現実はストーリー通りにすすまない。演繹的に理屈で考えたものがいかに予想外の結果に終わってしまうかがわかります。そこでRCTを適用するのです。
国が限られた予算の中でAをやるかBをやるかというときには小規模のRCTであたりをつけることは本当に大切です。企業の経営判断も日本的な根回し+HiPPOで大失敗も数々見てきましたよね。従来型の大企業ではなかなかRCTをうまくつかいこなせていないんじゃないでしょうか。まだまだ演繹的なストーリー中心主義です。
それに比べて、RCTを日常的に取り入れているのがインターネット関連業界です。ネットはRCTであふれています。Amazonの価格変動RCTに右往左往した経験ありませんか。こうして今、この文章を読んでいること自体がすでにRCTに組み込まれているかもしれないんです。
日本企業では細かいことにコストかけてやりますが、コストかけないで大雑把なのとどちらがいいのかなんて議論してもわからないんです。アンダーライティングの世界で考えてみると、例えば「健康診断書の評価作業」で重箱の隅までコストをかけてみた方がいいのか、特定項目だけ見てコストをかけない方がいいのか、これこそRCTをやってみたら簡単に答えがでそうです。時代は Eminence (=HiPPO)から Evidence。21世紀はRCTの時代ですよ。