El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

ブックガイド(86)――不倫で心筋梗塞?――

――不倫で心筋梗塞?――

 気楽に読める一般向けの本で、アンダーライティングに役立つ最新知識をゲットしよう。そんなコンセプトでブックガイドしています、査定歴23年の自称査定職人ドクター・ホンタナ(ペンネーム)です。今回のテーマは「性感染症」、昔で言うところの性病です。この本、それほどページ数もない新書にもかかわらずアンダーライティングに役立つ知識満載でした。充実の内容で一読の価値ありです。

性感染症だけでなく性分化異常や高齢者の性など、語られにくいプライベートゾーンの医学が実際の診療エピソード満載で語られています。この分野も、いや性という分野だからこそ、時代とともに大いに変貌していることに気づかされました。タイトルになっている性感染症の分野では、変化をもたらす2つの要素、①AV(=アダルト・ビデオ)の影響、②インバウンド旅行者の影響・・・なるほど。

AVに触発されて、オーラルやアナルなどそれまで日本人には一般的ではなかったものが一般化したために、下(シモ)の病気が上に・・・咽頭痛でカゼかと思ったらクラミジア咽頭炎だったとか、HPVで咽頭がん、などなど。アナルで言えば、アメーバ赤痢をもらってしまうということが実際に起きている。確かに、数年間難治性の潰瘍性大腸炎として治療されていたものが実はアメーバ赤痢だったという例を見たことがあります。

インバウンドといえば、主に中国や東南アジアからの旅行客ですが、日本では制圧されていた性感染症やウイルスがそれらの国からバンバン持ち込まれている現実は・・・まあ、冷静に考えてみれば当たり前のことでコロナ禍にも通じるところありますね。そういう人と接触しないから大丈夫という考えは大間違いで、例えば「接待を伴う飲食店」や「性風俗の店」の従業員を介して感染するということはありそうな話です。さらに言えば、自分は大丈夫でもパートナーはどうでしょう?

そういう現象の結果として、HIVや梅毒、スーパー淋病が若者中心に増えてきているという事実を知れば・・・恐ろしい話です。また、2020年10月から避妊用の低用量ピルが処方箋なしで入手できるようになりましたが、ピルは妊娠は防げても性感染症は防げない、というよりむしろ広がりやすくなりそうです。

性感染症以外でも、性に関する話題満載です。DSD(性分化異常)についても現場感覚にあふれた患者エピソードが多く、あまり語られない分野なので勉強になります。見た目の性別と染色体上の性別が相違しているDSDの新生児は毎年200人も生まれているんですね。男児・女児として出生届を出して、男児(染色体上は女児)であれば小児期に外性器の発達障害で判明し、女児であれば思春期に月経が起こらないことで判明します。どうも変だということで受診することになるわけですが、そこまでは出生時に判断された性別で生きてきたわけですから、そこから切り替えるのは困難ですよね。LGBTの一部にはこれらのDSDの人々も入っているのです。

また、初潮年齢が早く(若く)なっているのに妊娠・出産・授乳の機会が昔に比べれば激減しているため、女性の生涯の月経回数は戦前に比べて10倍にもなっているという事実も言われてみて初めて気づきました。これが子宮内膜症の増加をもたらしているわけです。などなど、まだまだ、面白い話がたっぷりですが、ちょっとここには書きにくいことも多いのでぜひとも一読をお薦めします。教科書では得られないリアルな性医学、貴重な一冊です。

最後に、書きにくいことの中から一つだけ警鐘として抜書きしておきましょう。いわゆる腹上死の話題で「男性の不倫は急性心筋梗塞の高リスクファクター」らしいですよ!(査定職人 ホンタナ Dr. Fontana 2021年1月)。