――「老い」は治療できる!――
気楽に読める一般向けの本で、アンダーライティングに役立つ最新知識をゲットしよう。そんなコンセプトでブックガイドしています、査定歴23年の自称査定職人ドクター・ホンタナ(ペンネーム)です。さてコロナ禍の真っただ中とはいえ2021年が始まりました。新年ですから少し景気のいい本ということで「私たちは、いつまでも若く健康なままで生きられる!」という本を選んでみました。
「そんなバカな・・」「眉唾・・」と私も最初は思いましたが、著者はハーバード大学教授で老化研究の第一人者です。老化研究の最前線の話としては確かに説得力があります。老化の原理から説き起こし、老化は逃れられない運命ではなく一種の疾患であると考えることを提唱します。ウェルナー症候群という遺伝子異常による早老症がありますが、例えば人類全体がそれよりは程度の軽い早老症にかかっていると考えてみるわけです。なんだか常識を覆す感じがなかなか面白そうですよね。
著者の理論の根底にあるのは「サバイバル回路」という考え方。40億年前に地球上に原初の生命が誕生した頃、地球環境は今とまったく異なり、超高温や超低温、宇宙からの放射能や極端な乾期などで生物の生き残りには厳しい環境だったわけです。そこで原生生物は、厳しい環境におかれてDNAが傷つくと細胞分裂や生殖といった自己の再生産をいったん中止し、傷ついたDNAの修復に専念するという戦略を採った。この臨機応変な生存と繁殖のスイッチ・メカニズムがサバイバル回路です。著者の研究によると、このサバイバル回路はDNAそのものにコードされているわけではなく、脱メチル化酵素の活性や修復しなくてはならないDNAへのアクセスにしやすさなど、いわばDNAの周辺状況(=エピジェネティックス)に依存しています。DNA自体はデジタル情報なので修復しさえすれば劣化しませんが、エピジェネティクな環境はアナログなので、使いすぎたり、使わなさすぎたりすると劣化していきます。そうすると機敏で正確なDNAの修復が行われなくなり、これがまさに老化を引き起こすのだと・・・。このサバイバル回路老化理論を酵母やマウスを使った実験で順序だてて解き明かしてくれるので読んでいるうちにすっかり納得させられてしまいます。
現代人はどちらかというとサバイバル回路を使わない方向に進んできて、現在のバランスは使わない側で固着・劣化しており、その状態が現在の平均寿命をもたらしています。そこで、人為的にサバイバル回路を使う方向に活性化してDNA修復能力を復活させれば、それが老化を防ぐことになるというわけです。筆者はこれを「DVDの表面についた傷をきれいにして正しく再生できるようにする」と例えています。
具体的には、日常的には「食べる量を減らす」「間欠的断食」「アミノ酸制限」「運動」「暑さ寒さに適度に身をさらす」―― なんだかよく言われている健康法に近いのですが、つまるところ適度なストレス・飢餓が必要ということですね。同じ効果をもたらす薬として挙げられているのが、糖尿病の薬としてよく使われるメトホルミンなのでびっくりです。それとNAD(ニコチン酸アミド)の前駆体NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)というサプリメントです。「参考Website(下記)」を見ると、なるほど世間的には結構有名な話なんですね・・・不勉強でした。
そんなこんなで、寿命は130歳くらいまではのびるという結論になるのですが、私も正月休みにお屠蘇気分で読んでいて「なるほど」とは思ったものの、一抹の「胡散臭さ」もぬぐいきれてはいません。とりあえず、ステイ・ホームの中、「減食」と「ウォーキング」は続けようかなと思いました。メトホルミンも試してみたい!
「老化研究」の最前線を知るには最適な本です。130歳まで生きたいならぜひ読んでみてください(査定職人 ホンタナ Dr. Fontana 2021年1月)。
参考Website
①「メトホルミン」が寿命を延ばす アンチエイジング効果を確かめる試験 | ニュース | 糖尿病ネットワーク (dm-net.co.jp)
②NMNとは | 新興和製薬株式会社 (shinkowapharma.com)