El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

ブックガイド(83)―フィールドワーク人口論―

 

2050年 世界人口大減少
 

  気楽に読める一般向けの本で、アンダーライティングに役立つ最新知識をゲットしよう。そんなコンセプトでブックガイドしています、査定歴23年の自称査定職人ドクター・ホンタナ(ペンネーム)です。今回のテーマは「人口」、これまで日本の人口減少についての本は何度か取り上げてきましたが、今回は「世界の人口」はこれからどうなるのかを統計数値だけではなく、いわば人口大変動の現場に足をはこんでのフィールドワークで捉えた人口論議、なかなか面白い本です。

 一般的な人口を論じる本ではその多くがいわゆる統計的な数字を使って話を進め、人口の将来予測をしています。つまり、ここ何年間かの人口の増加率や減少率や出生率をもとにそのトレンドが続けば何年後にはこうなりますよといういわば線形の予測です。しかし、その予測には統計的な数値ではとらえきれない新しい現象は織り込まれていません。

 ところが、世界の変化やイノベーションが加速して矢継ぎ早におこるようになると、そうした予測があっという間に陳腐なものになりかねないのです。たとえば1980年の予測には共産圏の崩壊は織り込まれず、1990年の予測にはネット社会の到来は織り込まれず、2000年の予測にはスマホの登場は織り込まれていません。ところが現実にはそうした出来事が起こり、あっという間に世界を変えてしまいました。当然その結果として社会のありようも変わります。インドでもアフリカでも女性がスマホを持ち情報を交換する時代が突然やってきたのです。

 それらの変化は人々の行動変容を引き起こし、結婚・妊娠・出産といった人口に関わる行動も大きく変化します。具体的には、都市化(人口の都市集中)と女性の教育水準の上昇は多くの国で出生率の減少を引き起こすことは間違いありません。ネットやスマホなど情報を得る手段が増えたこともそうした現象を増幅します。これまでの推計では人口爆発が懸念されてきたインドやアフリカですが、急激な出生率の低下はそんな推計をくつがえしかねないのです。

 著者らは、統計数字ではわからないそんな変化をインドやアフリカを含めた世界中でのインタビューなどのフィールドワークで明らかにしていきます。グローバル化そして情報化した社会では統計数字の予測を超えた加速度的な変化が起こるということなんですね。その結果として予測よりもずっと早く2050年頃には90億をピークとして世界人口は減少に転じるのです。

 本書のもう一つの論点は「移民」。アメリカ、カナダのように移民を上手に国力の維持に使えている国の底堅さの一方で、日本のように歴史的・文化的に移民の受け入れがうまくやれない国の衰退は避けられないのかもしれません。一時期、中国や東南アジアからの労働力移入が積極的になりそうな時期がありましたが、コロナ禍でどうなることか。そもそも、中国や東南アジアもすでに人口を維持できない出生率水準になりつつあるので移民どころではなくなるのですが・・・。

 この本で気づかされました、「変化が加速度化する世界で旧態依然とした統計手法では真実を見誤ってしまう」のです。変化が加速化し予測が難しい社会、コロナ禍で日々感じることでもあります。それ以外にも世界の人口・難民・移民について多面的にクリアにわかる良書です。コロナでそれどころではないですが、日本の人口減少の出口もまた見えない・・・。(査定職人 ホンタナ Dr. Fontana 2020年12月)