El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

2050年人口大減少

 

 フィールドワーク人口学

人口を論じる本の多くがいわゆる統計的な数字を使って話を進める。そして人口の将来予測をする。つまり、そうした本の予測は統計的にとらえられる事象以外が織り込まれていない。人口の増加率や減少率や出生率をもとにそのトレンドが続けば何年後にはこうなりますよといういわば線形の予測。

そこには、近未来に起こる新しい変化、たとえば1980年の予測には共産圏の崩壊は織り込まれず、1990年の予測にはネット社会の到来は織り込まれず、2000年の予測にはスマホの登場は織り込まれていない。ところが現実にはそうしたことが起こり、あっという間に世界を変える。当然、社会のありようも変わる。インドでもアフリカでも女性がスマホを持ち情報を交換する時代が突然やってくる。

それらの変化は当然、行動変容を引き起こし結婚・妊娠・出産といった人口に関わる行動も大きく変化する。具体的には、都市化(人口の都市集中)と女性の権利の拡大は出生率の減少を必ず引き起こす。この、これまで織り込まれていない出生率の低下は人口爆発が懸念されているインドやアフリカでも必ず起こる。

著者らは、その統計数字ではわからない変化をインドやアフリカを含めた世界中でのインタビューなどフィールドワークで明らかにしていく。グローバル化そして情報化した社会では統計数字の予測を超えた加速度的な変化が起こるということだ。その結果として2050年頃の90億をピークとして世界人口は減少に転じる。

本書のもう一つの論点は「移民」。アメリカ、カナダのように移民を上手に国力の維持に使えている国の底堅さの一方で、日本のように歴史的・文化的に移民の受け入れがうまくやれない国の衰退。一時期、中国や東南アジアからの労働力移入が積極的になりそうだという時期があったがコロナ禍でどうなることか。そもそも、中国や東南アジアもすでに人口を維持できない出生率水準になりつつあるので移民どころではなくなる。

世界の人口について多面的にクリアにわかる良書。しかし、日本の人口減少の出口は見えない。