El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

日本社会のしくみ

日本の雇用慣行形成史としてわかりやすい。

2020年5月27日

日本の働き方、外国(アメリカ・ドイツ)の働き方の違いから説きはじめ明治維新に遡る官吏の「新卒一括採用・長期雇用・年功序列」の仕組みが軍隊や企業にも持ち込まれ、戦後はさまざまに改革しようとするも「上級職員(キャリア)・下級職員(ノンキャリ)・現場労働者」の三層構造は形をかえ維持されるという歴史の流れがよくわかる。会社メンバーシップ(日本)・職種メンバーシップ(ドイツ)・制度化された自由労働(アメリカ)と違う雇用慣行が形成されていった事情は日本にもある、各国にもある。

ここぞという文章を引用するならば「日本の労働者たちは、職務の明確化や人事の透明性による『職務の平等』を求めなかった代わりに、長期雇用や年功賃金による『社員の平等』を求めた。そこでは昇進・採用などにおける不透明さは、長期雇用や年功賃金のルールが守られている代償として、いわば取引として容認されていたのだ。(574ページ)」・・どうですか?

各章はまずまとめが1ページ、そしてその結果にいたるまでの事実の提示・先行研究の引用・評価が述べられる本文、それに引用文献一覧(これが各章ごとに10ページ近くついている。そこを読むのも面白い)、で構成される。それが終章含めて9章で600ページの大部。
テンポよく読めるが半分くらいのページでも同じことは言えたんじゃないか。特に第1章は全体の流れからは浮いていて、無い方がすっきり入り込めるような気がする。ま、みっしり書き込むところが小熊氏の特徴ではあるので、それはそれで読み込みました。